第161話 奥の手。



「ぐあ! い、一体何が……何が起こって」


 ガルゴは突然のことに目を見開き、動揺した。


 その動揺は彼の体を浮かせていた風属性の魔法の【フライ】を不安定にする。


【フライ】を不安定になって地に転落しそうになったガルゴの左手を【空脚】によって足で空気を蹴って、空中に留まっていたアレンが掴んだ。


 そして、アレンはガルゴを見下ろしながら言う。


「お前みたいな力に酔って調子に乗った魔法使いほど、容易く倒せる敵はいないよ」


 今のアレンとガルゴの戦いを見ていた本陣の周囲にいた兵士達にとっては何が起こったか分からなかった。ただ、アレンに魔法使いのガルゴがあっけなくやられてしまった事実を目にしたは恐怖するしかなかった。


 カタカタと震えだして剣を落として後退り一人……また一人と逃げ出していく。


 それからアレンはゆっくりと下降して、ガルゴを地面に放り投げた。そして、アレンはガルゴへと剣を向け……続ける。


「参ったか?」


「白鬼……貴方は化け物か」


「……わかったなら。さっさと撤退するんだな。俺は敗走する者の背を追わない」


「ヒャハ……言ってくれるなぁ。俺にはまだ奥の手があるん……」


 ガルゴは胸ポケットに左手を入れて、何か……紫色の飴玉のようなモノを取り出してみせた。ただ、アレンはすぐにガルゴの左の腕に向けて剣を振るった。


 すると、ガルゴの左腕から力が抜けて、ポロっと紫色の飴玉のようなモノを地面に落としてしまった。


「うが……」


「まだ【神無】が使える状態だ」


「本当に……化け物か。しかし……」


 ガルゴは勢いよく屈み、地面に落ちた紫色の飴玉のようなモノをパクリと飲み込んだ。


「……何か知らないが。そこまで奥の手とやらに頼りたかったのか?」


「白鬼にさえ勝てればなんだっていいんだよ!! ヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハ!」


「そうか……」


「ヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハヒャハ!」


「で、奥の手とやらが発動するまで、あとどのくらいかかるんだ?」


「ヒャハ……」


 アレンの問い掛けに、ガルゴは一旦笑い声を止めて自身の体をきょろきょろと見回して黙った。


「……」


「くそがぁああああああああああぁ。何も起きないじゃないかぁ! 何もぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉっぉ! アイツ、切り札……って嘘をついたのかぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ガルゴは地面に頭をゴツンゴツンと何度も付いて絶叫をした。それを見たアレンが調子狂ったように表情を浮かべながら問いかける。


「えっと、どうする? この軍の将である……お前には今逃げている奴らをまとめて国に帰って欲しいところなんだけど。ちゃんと帰るまでが戦争って言うだろ?」


「ふぐ」


「……ふぐ? 毒のある魚の?」


「ふぐぐぐぐっぐうぐぐっぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐうっぐ」


 ガルゴは嗚咽に似た声を上げた。


 泡を吹きながら、仰向けになり目を大きく見開いた。


 その様子にアレンは表情が強張らせた。


「お、おい、大丈夫か? さっきのは毒だったのか?」


「あぐぐっぐぐがががががあぁぁぁ!!」


「解毒の魔法は中級なんだよなぁ。今の俺には出来んから、すぐにローラを呼びに……って大丈夫じゃなさそう?」


 アレンがローラを呼びに足を引こうとした。そこでガルゴの体の変化に目を見開き止った。


 ガルゴの体がモコモコと皮膚が膨れ上がっていた。


 そして、アレンが先ほど切り落としたガルゴの右腕……右肩の切り口、そして左腕の切り口が膨れ上がり……再生しているように一見見えた。


 ガルゴの体はモコモコと膨れ上がり再生……そして、破壊が起こり全身から夥しい量の血液が膨らんだ血管から噴き出した。


「おい、さっき飲んだモノはなんだ? どこに手に入れた!」


「ががががががががあぁぁぁあああああ!!!!!」


「く……もう声は届かないよな。禁止魔法薬の一つ? この俺が今まで見たことがない禁止魔法薬……となると新薬か? それとも……」


「ぐあああああああ!」


 大きく叫び声をあげたガルゴが再生し巨大化していた右腕をアレンへ向かって振るった。


 ただ、アレンは難なくガルゴの巨大化した右腕を躱した。そして、ガルゴを警戒しつつ、後方に飛び去って……見上げるのだった。


 ガルゴの体が大きく……巨大化していったのだ。


「ヒャハハ……ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」


 ガルゴは笑い声を上げた。


 ガルゴの体は化け物と化していた。


 化け物……巨大な黒蛇だった。


 頭部には幾百ほどの目玉がギョロギョロ動き回る。裂けるような大きな口に幾千の牙を蓄えていた。


 そして胴体は長く、二つに分かれたしっぽは周囲で敗走し始めた本陣周囲に居た兵士達を踏み潰した。


「そうか。ムート婆ちゃんが『断切者』として過去の文献をすべて破壊したと言っていたが。……まだどこかに文献が残っていたのか」


 アレンは一度目を瞑って、開けてガルゴを睨み付けて続ける。


「……『魔獣薬』」

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