第139話 よく見たら。

「おい、このクエストどうする?」


「あぁ、ベラールド王国の防衛戦に派遣する傭兵募集な。これは金になるんだがなぁ」


「防衛戦にとはいえ、相手がバルべス帝国となると……兵数がかなり揃えてくるんじゃねーかな?」


「だよなぁ。ベラールド王国には守護神グラース・ファン・ロドリゲスがいるし、防衛しきれるってのがもっぱらの噂だが……」


「あぁ、多く死ぬことになるだろうなぁ」


「そうだよな。しかし、何で今バルべス帝国はサンチェスト王国からベラールド王国に矛先を変えたんだろうな? アイツ等はサンチェスト王国へ侵攻を繰り返していたんじゃねーのか?」


「それが分かるのは帝国のお偉いさんだけだろ。それよりも傭兵はどうするかって話だよ」


「傭兵かぁ。正直、やりたくないってのが、本音だけどな。冬はほとんど稼ぎがなかったからな。ただ、それはみんな同じで……今の時期はクエストの競争が激化して、なかなか稼ぐのも難しい……俺は受けようと思う」


「……だよな。じゃ、俺も受けるかなぁ」




 傭兵募集か。


 正規兵の指揮をずっとしてきた俺からしたら、傭兵って扱い辛いんだよなぁ。


 まぁ、俺には関係ないことか。


 それにしても……なんでサンチェスト王国からベラールド王国に矛先を変えたんだろうか?


 今のサンチェスト王国には俺も居なく、火龍魔法兵団も居ない。


 凄い攻め時の筈だが?


 ……理由は考えたところで分からないか。


 ただ、そのおかげでサンチェスト王国には猶予が生まれたな。


 防衛のために複数の城を急造して防衛線を固めて……。後は他国との同盟を組むのに尽力すれば。それで数年は国を防衛できるか。


 それで、矛先をかえたベラールド王国。


 その王国の守護神グラース・ファン・ロドリゲスがどれほどの奴か気になるところだな。


 俺が傭兵をやる気はないが、守護神グラース・ファン・ロドリゲスがどんな戦いをするのか、ホランド達を連れて見物に行ってもいいかも知れんな。




「おい、ベラミー、お前はどうするんだ? 傭兵の件は」


「俺は、冬の間にできなかった青い鳥を探しに行くぜ」


「……それで大丈夫かよ。お前だって冬の間稼ぎは少なかったんだろ?」


「大丈夫、青い鳥を探している道中で売れそうな素材も集める……それで何とか食いつなぐ」


「俺にはお前がそこまで青い鳥を求めているのか……」


「あぁ、そこまでするんだ。もう一生出会えないチャンスかも知れねーからな」




 まだ、青い鳥を探している連中が居たのか。


 お疲れ様だぜ。


 確かにもし召喚契約が結べたりできれば、背に乗せてもらって空を飛ぶこともできるだろうしなぁ。


 便利。便利過ぎる。


 アレ、俺も少し探しに行きたく……いや、シルバは知らんが、ノヴァがあまりいい顔し無さそうだし、やめておくか。


 ……青い鳥と言えば、リナリーのお姉さん……プルラだったか? ポメラだったか?


 いや、名前は思い出せないが……リナリーのお姉さんはまた青い鳥を探しに行くのだろうか?


 いや、リナリーが家のことで忙しいと言っていたし、リナリーのお姉さんも忙しくなって、青い鳥探しどころではないのかな? ん?




 アレンが噂話を聞きつつ考え事をしていると、ゲルドの声が聞こえてくる。


「おい、アレン。買取査定終わったぞー」


 アレンが顔を上げると買取カウンターに立っていたゲルドがアレンに向けて手招きしていた。アレンは椅子から立ち上がってゲルドが居る買取カウンターへと歩き出す。




 アレンが買取カウンターに再び行くと、ゲルドがすぐに査定結果の話を始める。


「ガーホ鳥三羽とラグラビット二羽の査定結果だが、相変わらずすごい状態もいいし、今は肉不足であるから二割増しの銀貨十枚だな」


 ゲルドは買取カウンターの上に銀貨をパチパチと十枚並べていった。


「よし、銀貨十三枚が良いな」


 何がよしなのかわからないが、ゲルドの査定結果を聞いてアレンは指を三本立ててそう言った。


 すると、ゲルドは表情を曇らせてく、一度アレンが買って来たガーホ鳥三羽とラグラビット二羽へと視線を向けて、口を開いた。


「……銀貨十一枚はどうだ?」


「銀貨十二枚はどう?」


 ニコリと笑ったアレンは今度は指を二本立ててゲルドにみせる。すると、ゲルドは苦悶の表情で腕を組む。そして、絞り出すように声を出す。


「んーうーうん、銀貨十一枚と銅貨三枚」


「銀貨でキリ良くしない? やっぱり銀貨十二枚は?」


「いや、世の中、キリの良いことばかりじゃないんだ。善と悪が完全に割り切れないようにな。銀貨十一枚と銅貨五枚だ。それ以上は無理」


「そうか。わかったよ。銀貨十一枚と銅貨五枚で」


「はぁーアレンの坊主も強かになったもんだぜ」


 ゲルドは銀貨十一枚と銅貨五枚を買取カウンターへ並べていく。


「ハハ、それは褒め言葉かな?」


「あぁ、褒め言葉だ。……アレンも冒険者として成長したってことか。身長は伸びてないみたいだが」


「やっぱり、銀貨十四枚で」


「ぬお、銀貨十四枚は高すぎないか? いやーアレン、よく見たら身長も少しは伸びたんじゃねーか? おい」


「銀貨十四枚で」


 それから、ゲルドが懸命にアレンの機嫌を取ったことで、ガーホ鳥三羽とラグラビット二羽は銀貨十二枚と銅貨五枚で結局買い取られることになったのだった。

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