第124話 大ファン。
「ひっ!」
「どうした来ないのか?」
「こ、こっちに来るな。この女がどうなってもいいのかぁ!」
アレンが一歩、ローラを拘束していた男へ向けて踏み出すと、ローラを拘束していた男はローラを引き寄せてナイフをローラの首筋に突きつけた。
「今更、ビビッてんのか? だらしないな。逃げたきゃ見逃してやるが?」
「お前もぶっ殺す!」
「ハハ、なんだ、女を盾にしながら吐くセリフか?」
「うるせ!」
「まぁ、いいっか」
アレンはヒュッと風を切る音をさせて右手を振り上げた。すると、アレンの右手に握られていた土の塊が飛んで……男の眉間あたり顔面にぶつけられる。
「な……ぐわ!」
「おやすみ」
突然のことに男は目に付いた土の塊を拭う。その隙をアレンが見逃す訳もなく、一気に距離を詰めて腹を思いっきり殴りつけた。
男は大きく息を吐いて、アレンに覆いかぶさるように倒れた。
「ふぅー」
「あ、あの」
アレンが覆いかぶさった男を除けると、黙っていたローラがアレンへ手を伸ばして声を掛けた。
服に付いた埃を払いながら、ローラに視線を向けてニコリと笑う。
「ん、お姉さん。運が良かったね」
「あ、ありがとうございました」
「うん、たまたま見かけたからね。えっと、帰り道は分かる?」
「あ、はい、いいえ」
「どっちだよ」
「あの貴方……貴方様はアレン・シェパード様ではありませんか?」
ローラの問い掛けに、アレンは笑顔のままピキっと固まった。そして、動揺したように口を開く。
「は……なんで? いや、間違えた。だ、誰だよ? そいつは?」
「私は貴方様の語り歌赤い龍の英雄の大ファンです。貴方様の姿絵をずっと見ていた私の目は誤魔化すことはできません!」
ローラはニパッと笑うと、アレンの両手を掴んだ。
「……うむ」
「やっぱり本当なのですね。あの祭りの日に壁際で座り込んでいた貴方様を見かけた瞬間に気付いてしまったのです!」
「……はぁ……髪色さえ変えていれば気付かれんと思っていたが……」
「はぁ、こんなに早く出会えるなんて……感動です」
「そうか、では他言せずに居てくれると嬉しい。じゃあな」
立ち去ろうとしたアレンにローラは引き止めるように手を伸ばした。
「ま、待ってください」
「なんだよ」
「私は貴方様に会うためにここへ来たのです」
ローラはまっすぐにアレンを見つめながら、そう言った。すると、アレンは考えを巡らせるように視線を上げると髪を掻いて口を開く。
「あぁ……なんだ、訳ありか? はぁーとりあえず、ここを離れて話を聞くか」
「きゃ」
近くに誰かが近づいてきていることを勘付いたアレンはローラを抱えると、飛び上がって壁を駆け上る。そして、家々を飛んでその場から離れた。
ここはリンベルクの街のどこかにある屋敷の屋根の上。
屋根の上は肌寒く。雪かきしきれていない雪が少し残っていた。
アレンは抱きかかえていたローラを降ろす。すると、ローラは頬を赤くしながら、体をくねらせる。
「大丈夫か?」
「はい……ありがとうございます。はぁ。アレン様にお姫様抱っこで……夢のような時間でした」
「……どうしたんだ? まぁいい、寒いだろ」
アレンはそう言うと着ていたコートを脱ぐと、ローラにかけてやる。
「あ、ありがとうございます。しかし、アレン様が」
「いいよ。それよりも……話はなんだ?」
「すみません。あぁ……ありがとうございます」
ローラから熱のある視線を受けたアレンは戸惑うような表情を浮かべた。
「そ、それで、俺に何の用だ?」
「あの……アレン様は誰かお付き合いなされている方はいらっしゃるのでしょうか? あ……結婚している方が? いえ、アレン様は英雄様です。女性の一人や二人は居て当然ですよね」
「え? ま、待って……なんの話?」
アレンは訳が分からないと言った様子で、身を乗り出してくるローラを押しとどめる。
「私はずっとアレン様をお慕いもうしておりました」
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