第122話 ローラ・スノーリア。
「うぅ……さみーなぁ」
厚着しているアレンはリンベルクの街の大通りを歩いていた。
アレンが厚着しているのでわかる通り、本格的な冬を迎えていた。
今日は雪が止んでいるが、先日まで降っていた雪が路肩に高く積み上げられていた。
「ふぅ……まさか、スービアが俺達のパーティーに入って来るとは何かあったんだろうか?」
アレンは吐く息を白くしながら呟いた。そして、目の前に転がっていた雪の塊をコンっと軽く蹴る。
しばらく雪の塊を蹴って歩いていると、不意にアレンが立ち止まった。そして、立ち止まったところから見えた裏路地に視線を向ける。
「ん? なんか、悲鳴のような声が聞こえた気がした? 気の所為だと良いなぁ……一応行くか。もし、なんか起こっていたら目覚めが悪いし」
アレンは蹴っていた雪の塊に視線を向ける。そして、雪の塊を蹴って転がすと声が聞こえてきたと思われる裏路地へ向かって歩き出した。
「はぁはぁ」
リンベルクの街の裏路地を古くぼろいローブを身に纏った女性が走っている。
その女性はまだ幼さを少し残しつつも、誰もが見惚れてしまう美貌を有していた。
大きなで澄んだ青い瞳。その瞳は少し垂れ目でおっとりした印象がある。
輝くほどに美しい金色の髪。その髪は背中まで付くほど長くウェーブする。
プクリと形の良い唇、整った顔立ち、ローブの上からでもくっきりと分かるプロポーション……彼女の魅力を挙げたらキリがない。
彼女は教会から認められた聖女で……名はローラ・スノーリアである。
今は教会に派遣される形でクリスト王国のリンベルクの街に滞在していた。
そんな彼女がぼろいローブを着て裏路地を走っているのか?
彼女は……ある目的のために彼女の護衛の隙を狙って逃げ出していた。
ローラは路地の壁に背を付けて息を潜めながら、路地の先の通路の様子を窺う。そこには白色の鎧を身に纏った二人の男性が居て話していた。
「リチャード! ローラ様はどこに行ったか分かったか!」
「あっちの通りでローラ様に似た方を見かけたそうだ」
「そうか、手分けして探すぞ! 我々が大司教様に殺される!」
「はい!」
白色の鎧を身に纏った二人の男性は話を終えると、別れて周囲を探し始めた。
「……ひとまず、離れて行ってくれたみたいですね」
彼等の話を聞いていたローラはそう呟くと胸に手を当てて、フーッと息を吐いた。
「へへ、こんなところで女の子一人で何してんの?」
「危ないから、俺らのアジトで休憩しない?」
「ギャハハ、本当だ。危険。危険」
ローラが白色の鎧を身に纏った二人の男性に気を取られていると、背後からニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべたボロ服を着た三人の男性が近づき声を掛けられた。
ローラは振り返ってボロ服の三人組に視線を向けると、ローラの顔を見たボロ服の三人組は更に笑みを深めてローラに近づいてくる。
「おいおい、スゲー美人だぜ?」
「こりゃ、上玉だぜ」
「いいね。いいね。売るか。食うか迷うぜー」
「売るに決まっているだろ? 絶対いい金になるぜ?」
「ちょっとつまみ食いしてからでいいよな?」
「そうだな。そうだな。そうしよう。ギャハハ」
「……いや、近づかないでください」
近付いてくるボロ服の三人組に対して、表情を強張らせたローラは後退っていった。
「へへ、どうしたんだ?」
「逃げんなよ」
「そうだぜ。そうだぜ。俺達がいいところに連れてってやるんだからさ」
「ひっつ! いや!」
ボロ服の三人組の手が届く前に、ローラは小さく悲鳴を上げて逃げ出した。
「ここは俺らの場所なんだ。どこに行っても無駄だぜ」
「逃げても無駄」
「ギャハハ」
ボロ服の三人組はそう言うと下品笑いながら、逃げるローラを追いかけていった。
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