第120話 スコーン焼いてみた。

 ここはアレン達が住んでいる青い屋敷。その談話室である。


 バケットを持ったアレンが談話室に入ってくる。そのバケットには手の平サイズのゴツゴツした表面のスコーンが何十個と大量に入っていた。


「スコーンを焼いてみた」


 アレンがスコーンの入ったバケットをテーブルの上に置くと、スコーンからは香ばしくもほのかに甘い匂いが漂ってくる。


 談話室のソファに座って待っていたホランド、リン、ユリーナ、ノヴァの三人と一匹は我先にと言った様子でスコーンに一斉に手を伸ばした。そして、ガツガツと食べ始める。


 スコーンを食べると外はサクッと中はホロホロとほどけるような触感で、噛みしめると鼻からバターの香りがフッと抜ける。


 そして、咀嚼していくとほんのりと口の中に甘さが広がり、練り込まれていた乾燥させた果物が果物の酸味と甘みが少し遅れてやってきた。


「そんなに急いで食べると、喉を詰まらせるぞ? ……お前ら、朝食はちゃんと食べていただろうに……」


 アレンが苦笑しながら、スコーンを食べるホランド達を見る。すると、大量のスコーンが入ったバケットとポットを持って談話室に入ってきたノックスがアレンに声を掛ける。


「ハハ……このスコーンは美味いッスよ」


「まぁ、失敗しなくてよかったな」


「そうッスね」


「あ……持ってきてくれたか」


「はいッス」


 アレンはノックスから陶器で出来た瓶を受け取ると、それもテーブルの上に置いた。


「まぁ、このスコーンは木の実のジャムを付けて食べると更に美味いんだけど……いらないのかな?」


「な、なぜ、それを早く言わんのか」


 スコーンを器用に前足で挟み掴んで食べていたノヴァがアレンに文句を言った。ただ、アレンは特に気にすることもなくノヴァの隣のソファに座る。


「俺の話を聞く前に食べ始めたのはどこのどいつだよ」


「う、それはそうじゃが」


「まぁ、ゆっくり食べろよ?」


 アレンは木のスプーンでジャムを掬うと、ノヴァが持っていたスコーンに塗ってやる。対してノヴァはアレンの気遣う言葉虚しく、ジャムが塗られたところからスコーンにかぶり付いた。


 甘さが控えめであったスコーンに甘い木の実のジャムが加わって、口の中にジャムの甘さがブワッと広がる。


 そして、スコーンにジャムが染み込むことで少ししっとりとした触感と変わっていった。


 アレン達はしばらくスコーンを楽しんでいた。


 スコーンを食べるのに満足したホランドがアレンに視線を向けて切り出した。


「それで話したいことってのは何ですか?」


「それがな……」


「言い難いことなんですか?」


 アレンはソファの背に背中を預けて、天井を見上げる。


「んーまだ、正確な情報という訳ではないんだが……火龍魔法兵団が無くなってしまったぽい」


「「「「は!?」」」」


 ホランドとそして未だにスコーンを貪り食べていたリン、ユリーナ、ノックスが揃って驚きの声を上げた。


 動揺しながらもホランドがアレンに問いかける。


「どどどど、どういうことですか!?」


「……繰り返すが、これは噂を聞いたに過ぎないから、正確な情報という訳ではない」


「そうですか……噂ですか」


「その噂が本当なのかは……これから調べるんだけどな。お前らの話も聞きたかったんだよ。その噂によると副長達が全員やめて、それに団員がくっついて行ったらしい」


「……それってアレンさんも居ない……副長も居ない……団員も居ないって……それは最早、火龍魔法兵団が無くなったのと同義ですね」


「あぁ、俺もそう思う。どうもさぁ、後釜の団長がポンコツだったみたいでな。団長はホーテがやると思っていたんだがな。火龍魔法兵団が無くなったら……サンチェスト王国はかなりヤバいだろ。国外追放されてしまった俺だがサンチェスト王国の人達のために何ができることはあるだろうか?」


「……アレンさんはもう自由に生きていいと思いますよ」

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