第116話 十秒間の出来事。
「ここまでか」
「ぐ……」
サッグフェネックとの戦いが数十分ほど続いたところで、スービアとアレンが膝を付いてバタンっと倒れた。
ちなみに、リナリーは十分ほど前にすでに倒れていた。
二人が倒れたところで、五匹のサッグフェネックが勝ち誇ったようにその場でオーンっと鳴き声を上げる。
「よっこいしょ……そろそろ良いかな? スービアと……そして、潜んでいたリナリーの監視も気配が切れたし。そんな訳で喜んでいるところ悪いが。もう一戦やろうか?」
アレンはそう言って起き上がって見せた。サッグフェネックはバッとアレンの方へ視線を向ける。
「ふ、そんなに驚かなくても……。それにしても、なかなかの毒だな。全身にしびれがあって、今にも眠ってしまいそうだよ」
アレンの言葉通り、アレンは立ち上がったものの両手はダランと垂れ下がり、プルプルと震えるだけで動く様子がない。
実際、武器でもある盾を持たずにいた。
そんな……客観的に見たら疲労困憊で弱弱しく立っている小さな少年をサッグフェネック達は警戒した。
サッグフェネックは冒険者達を大量に殺して血肉を食らい啜ることで進化したばかりである。
彼等は進化によって自身力が劇的な向上して、高揚感に浸っていた。
ただ、この時、サッグフェネックの高揚感を軽く吹き飛ばして、全身に寒気が走りブルリと体を震わせていた。
更に言うなら周囲の森が騒がしくなって……魔物が一斉に逃げ出し離れて行った。
……それ何故か……圧倒的な強者が放つ威圧がアレンから放たれたのだ。
「それで、何で動けているかについてだが……俺は足に【パワード】と言う魔法をかけている。本来なら動きを補助する魔法だよ。ただ、違う使い方もあってね」
アレンは軽くジャンプして、足を動かしてみせる。
「補助する力を極限まで高めて……魔法を効力で無理矢理動かしている。ただ、悪いんだが……」
アレンはサッグフェネックを見据えて言葉を一回切った。
五匹のサッグフェネックがシャーっと威嚇して臨戦態勢に入る。
「この状態では、あまり手加減出来ないんだ」
アレンがそう言うと、小さく砂埃を立てて……フッと姿を消す。
そして、次の瞬間一番近くに居た斧を咥えていたサッグフェネックの頭部に踵落としを叩き込んでいた。
最早、人間では追えぬほどの速度……そして、地面を揺るがすほどの威力でアレンに踵落としされたサッグフェネックの頭部が地面に深くめり込んだ。
次いでサッグフェネックの一体がアレンに飛びかかってくる。
ただ、アレンは軽く飛び上がりサッグフェネックの横顔に回し蹴りを食らわせて、吹き飛ばした。
回し蹴りを食らったサッグフェネックは周囲の森の方にまで吹き飛ばし、木々をバキバキとへし折りながら飛んだ。
そして、残った三体のサッグフェネックが三方向からアレンへと飛びかかっていく。
ただ、アレンは再びフッと姿を消して……正面から飛びかかって来たサッグフェネックを二段蹴りで森の木々を飛び越えて吹き飛ばした。
そして、右左から迫ってきたサッグフェネックは飛び回し蹴りからの後ろ回し蹴りで、それぞれ森の木々を飛び越えて吹き飛ばした。
アレンの強力かつ鋭すぎる蹴りに五匹のサッグフェネックは死を認識することすら出来ずに、死に絶えることになった。
そして……この戦闘はほぼ一瞬と言っていいだろう……十秒ほどの出来事だった。
その短い時間の中で五匹のサッグフェネックをあっさりと倒してしまったのだ。
「よっと、やっぱり手加減出来なかったわ。ごめんな……あぁ、もう眠い」
アレンはちょうどリナリーの隣に姿を現した。
そして……人形劇の人形の糸が切れたようにバタンと、その場に倒れた。
「んー周囲に脅威となる気配はないから少し……ふぁ、休んでいいよな」
アレンは地面に頬を擦り付けながら呟いた。そしてゆっくりと目を瞑った。
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