第117話 ぎこちない。
アレンがサッグフェネックを倒して、一時間ほど経った頃。
「……ん。アレン……」
リナリーが目を覚ました。
リナリーは目の前でアレンが眠っているに気付き……小さく呟くようにアレンの名を呼んだ。
アレンの頬に手を伸ばそうとしたところで、ボッと顔を赤くして手が止まる。
手を引っ込めて、伸ばそうとした手をキュッと抱きしめる。
そこでハッと我に返ったように、自身の体にペタペタと触った。
「私、生きてる」
リナリーは自身が生きていることに、驚いているようだった。
「おう、ようやく目が覚めたか?」
すでに目を覚ましていたスービアはリナリーが目を覚ましたことに気付いて、声を掛けた。
「……何があったの?」
「俺もよく分からねー。朦朧とする意識の中でアレンと一緒にサッグフェネックと戦っていた。ただ……サッグフェネックを倒す前に俺とアレンは倒れた……」
「え、じゃあ、サッグフェネックはどこに行ったの?」
「……そこでぶっ倒されているぜ」
スービアが親指を指した方では、彼女が言った通りサッグフェネックが地面の頭をつっこんだ状態で伸びていた。
「え? スービアがやったんじゃないのよね?」
「あぁ……」
「え? じゃ、誰が?」
「……わかんねーよ」
リナリーの問い掛けに、スービアは表情を曇らせて絞り出すように呟く。スービア自身もかなり戸惑っているようだった。
「ま、まぁ、何にせよ。私達は生き残ったんだから……いいんじゃない? 少なくとも私達だけで考えても分からないわ」
「……そうだな。くは、ところでリナリーあの死地を乗り越えたら、俺と付き合ってくれるって約束は覚えているか?」
「そんな、約束をした覚えはないわ!」
スービアの問い掛けに、リナリーは声を大きくして反論した。
リナリーとスービアがそんなやり取りをしているとムクッとアレンが動きだした。
「ん……なんだ? うるないなぁーふぁふぁ」
「ア、アレン、良かった。無事ね」
声を上擦らせたリナリーは視線を少し逸らしながら、欠伸をし上半身を起こしたアレンに声を掛ける。
「んあ? 俺、結構寝てた?」
「ううん、私も今起きたところよ。スービアが守ってくれていたみたい」
「そうなのか……ふぁふぁ、そういえばサッグフェネックは?」
「え、えっと、サッグフェネックが知らない間に倒されていたみたいなんだけど……アレンは何か知らない? アレンはスービアと一緒に最後まで戦ってくれていたのよね?」
「……俺も意識が朦朧としていてよく覚えていないんだよね」
「そうなんだ。すごく……」
リナリーは言おうとした言葉を止めて、顔を再び赤くしてその場に伏せた。突然のリナリーの行動にアレンは戸惑うような表情を浮かべる。
「ど、どうした突然?」
「ううん、気にしないでいいわ……ちょっとアリの観察がしたい気分だったの」
「……?」
「……」
リナリーの言葉に首を傾げていたアレンであったが……そこで黙ってアレンを見ているスービアの視線に気づいて、スービアに視線を向ける。
「スービア、なんだ?」
「いや……なんでもねーぜ? とりあえず、体は動きそうか?」
「あ、うん。大丈夫だよ?」
アレンはそう答えると立ち上がって、服に付いていたパンパンと砂埃を掃う。
「そうか。なら、埋まっている奴らを掘り起こすのを手伝え」
少しぎこちない様子のスービアとすごくぎこちない様子のリナリーとアレンの三人は地面に埋まっていた冒険者達を救出していく。
そして、ホップが目覚めたところで手早くサッグフェネックとゼルフェネックの解体をして、その場を離れた。
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