第109話 緊急クエスト。

 アレンが黙って考え事をしていると、リナリーが木のスプーンでスープを掬って一口飲んでから口を開く。


「……けど、使えるかは試してみないと分からないわね」


「まぁ、まだ雪ないし。雪が積もったら、どこかの……冒険者ギルド会館の屋根でも雪かきさせてもらって……練習したらいいじゃん」


「そうね」


 リナリーが納得したように頷いた時……カランコロンと鈴の音が鳴って三葉亭の入り口の扉が開いた。


 その扉からは見覚えのある人物が入ってきた。


「おう、ここに居たんだな。探したぜ」


 店の中に入ってきたスービアが、アレン達に気付いて近づいてくる。


「ん? どうしたんだ?」


「あぁ、ちょっとな」


 アレンの問いかけにスービアは空いていたホップの隣の席に座って答える。


「ちょっとなのか?」


「んーいや、ちょっとじゃないかも知れんな?」


 スービアが顎先に手を当てて、首を傾げる。スービアが現れたことで、サッとアレンの陰に隠れたリナリーが口を挟んでくる。


「何よ。私達になんの用なの?」


「相変わらず、リナリーはつれねーなぁ」


 スービアは渋い表情でリナリーを見た。そして、リナリーとスービアのやり取りを苦笑しながらアレンとホップは見ている。


 アレンが頬を掻きながら、口を開く。


「それで、本題は?」


「あぁ、そうだな……お前ら、俺と一緒に明日の早朝からユーステルの森に入らねーか? 俺に面倒な緊急クエストが舞い込んで来やがった」


「緊急クエスト?」


「あぁ……正直ソロの俺には面倒でなぁ。誰か巻き込みたかったんだよ」


「おい。本音が漏れているぞ」


「まぁ……どうせわかることだし」


「A級の冒険者であるスービアが面倒に感じる緊急クエストって……C級の冒険者である俺達が付いて行っても役に立たないだろう?」


「まぁ、普通のC級の冒険者なら役に立たないだろ。ただ、お前らは経験こそないが実力的にはもうB級の冒険者パーティーでも上の方だ……そこら辺の有象無象を連れて行くのよりは大分マシだぜ?」


「……とりあえず話だけは聞くがいいか?」


 アレンはリナリーとホップに視線を向けて、問いかける。


「……そうね。一応話だけ聞こうか」


「むう、なんか嫌な予感が」


 リナリーは一瞬考える素振りを見せて、頷き答える。そして、ホップは渋い表情しながらも答えた。


「悪いな。って俺もやりたくないんだぜ? 飛翼の連中が居たなら俺に回って来る内容のクエストじゃないんだぜ?」


「あー飛翼って……リナリーの姉ちゃんがいるんだっけ? 確か、その姉ちゃんは……」


 アレンがそう言って視線をリナリーに向ける。すると、リナリーは頭を押さえた。


「青い鳥を探しに行っているわね……」


「そうか」


「気合い入れて準備していたから、十日は帰って来ないんじゃないかしら?」


「なるほど……」


 アレンがリナリーの話を聞いて、スービアに視線を向ける。すると、スービアも少し疲れた表情を浮かべていた。


「青い鳥ってあの伝説のか? アイツらは相変わらずチャレンジャーだなぁおい……」


「それで……面倒な緊急クエストは?」


「ん? あぁ、悪いな。その緊急クエストはユーステルの森で遭難している冒険者達の救出だ」


「……それはさっき冒険者ギルド会館に運びこまれたぼろぼろだった冒険者と関係があるのか?」


「見ていたのか。あぁ、そうだぜ」


「と言うことは……今、ユーステルの森で遭難している冒険者達ってのはゴールドアックスの連中か?」


 アレンの問い掛けにスービアはふーっと鼻から長く息を吐きながら、ゆっくりと頷いた。


「あぁ……馬鹿どもめ」


 スービアの言葉を聞いたホップはビクッと体を振るわせて暗い表情を浮かべる。そのホップの様子を察しながらもアレンは更に問いかけた。


「……単純にユーステルの森で遭難しているって訳ではないんだな?」


「アイツら、C級の魔物の中でも厄介なゼルフェネックに手を出した」


 ……ゼルフェネック?


 どこかで聞いたような?


 んー。


 あぁ……一匹倒すと大きな鳴き声を上げて仲間を呼んで集団で襲ってくるキツネ?


 確か、声を上げる前に仕留めるのが基本だったはずだが。


 ゴールドアックスの……リーダーは確か……名前は……ルーカスだ。


 そのルーカスはゼルフェネックを仕留める際に仲間を呼ばれて……襲われているって感じか。


 なんとなく、状況が分かってきたな。


「それを助けに行くってこと? てか、今から助けに行って助かるのか?」


「そいつ等がゼルフェネックの群れに襲われて三日ほど経っている。現時点でも生きているか不明……これからゼルフェネックの縄張りはまで一日から二日ってところだ。助かるかどうかは限りなく低く……アイツらの運次第だな」


「……そうか、襲われてから四日……五日生きていられるか、ルーカスの実力から見て本当に運だな」


「正直、このクエストはいろいろ危険だ。まずはゼルフェネックがまだ怒りが収まってねーかも知れねぇ。次にゼルフェネックの群れに追われ逃げているだろうから目印もなく……探すのには骨が折れる。最後に、探す範囲は前に討伐したロックヘッドボアの縄張りよりも奥で、周りにいる魔物も強い……とざっと危険なことを並べるとこのくらいだな」


「うん、そうだな……」


「「……」」


 アレンとスービアは視線を下に向けて黙る。


 んー助からんな。


 現時点でも死んでいる可能性が高い。つまり、今から俺達が行ったところで無意味になる可能性が高い。


 見殺しにするのも可哀想だから、後でノヴァを放って……先にルーカスのところへ向かってもらうか。


 流れていた沈黙を破ったのはリナリーだった。


 リナリーはガタッと椅子から立ち上がる。そして、アレン達を見まわした。


「助けに行くわよ!」

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