第108話 冬になったら。
冒険者ギルド会館を後にしたアレン達は三葉亭にて食事をとっていた。
アレンが今日のおすすめメニューだったチキンスープを木のスプーンですくい飲んで、口を開く。
「それで、どうする? これからの冒険者活動は? あむ、今日のチキンスープはなかなか」
「冬は、みんなが受けない分だけいっぱいクエストは余って、高額報酬になるって話だが」
アレンの問いかけに、テーブルを挟んで対面に座っているホップが鶏肉のハーブ焼きを食べながら答える。
「まぁ、みんなが仕事しないなら高額報酬にもなるわな。しかし」
「雪がすごいしな。寒いし。特に雪の中でユーステルの森に入るのは自殺行為だと言われているそうだ」
「なるほどな。俺は冬を休みにしてもいいと思っているが。ホップはどうなんだ? 冬に働かなくてもいいくらいには金はあるのか?」
「あぁ、おかげさまで。一冬くらいなら問題ないぞ」
「そうか。じゃ、リナリーはどうする?」
ホップの言葉を聞いたアレンは隣に座っていたリナリーに視線を向けて問いかける。
すると、アレンと同じスープを飲んでいたリナリーは口元を尖らせながら考える仕草を見せる。
「んー。全く活動しないのもつまんないわよね。少しでもB級の冒険者に近づいておきたいし、体も鈍りそうよ。何か……雑用系でもいいからクエストでも受けない?」
「まぁ、そうか。雑用系のクエストなら……危険はないか。冬ってどんな雑用系のクエストがあるんだろか? とりあえず、草刈りや溝掃除はないよな? 雪で隠れる訳だし」
アレンとリナリーが首を傾げていると、パンを千切って口の中に放り込んで食べながらホップが会話に入ってくる。
「あむ。えっと、冬は屋根の雪かきとかが雑用系のクエストとして上がるな。結構大変であまりやる奴は居ないけどな」
「へーそうか。では、リナリーに雪かきの魔法でも開発してもらって楽ちんにクエスト済ませてもらうかな?」
アレンはホップが言ったことに頷いて、リナリーに話を振った。すると、リナリーは渋い表情を浮かべた。
「はぁ、魔法の無駄遣いよ?」
「ハハ、それは今更だよ。草刈りや溝掃除だって魔法を使っているんだから」
「……そうだけど」
「んーリナリーには難しいかなぁ?」
「……」
「魔法のことはよくわからないけど、庭や屋根を一切傷付けずに魔法で雪かきするのは繊細な魔法の調整がいるのかな?」
「……」
「やっぱりリナリーには難しいか……」
「……」
「まぁ、本格的な冬になったら、みんなで雪かきしてみようか? それで体を鍛えることもできるだろうし」
「できるわよ」
「……え、リナリーできるの? 魔法で雪かき」
「できるわよ。問題ないわ」
「無理は良くないよ? いくら魔法では天才のリナリーにも出来ないことはあると思うし」
「むう。できるって言っているでしょ?」
「本当に?」
「できるわ……ってん? 魔法では天才のリナリーって言うのはどういうことよ?」
リナリーがムッとした表情でアレンを睨んだ。ただ、アレンは気にすることなく、首を傾げた。
「アレ、俺そんなこと言った? 言葉はムズカシイヨ」
「アンタね……」
「ハハ……まぁまぁ、そんなことよりどんな魔法にするんだ?」
「もちろん、それはこれから考えるのよ」
「あぁ、やっぱりそうだよね」
「んーファイヤーボールは駄目よね?」
「そうだね。屋根どころか家が無くなっちゃうかも知れないね」
「んー何か……良い魔法ないかしらねぇ」
リナリーは人差し指を唇に当てて考える仕草を見せる。その様子を見たアレンはホップへと視線を向ける。
「ホップはどんな魔法が言いと思う?」
「ん? んー俺は魔法を使えないから考えたこともなかったが……なぁ」
アレンに話を振られて、ホップも考える仕草を見せる。
「まぁ大体の奴はそうだよな」
「そうだ。大量のお湯で雪を溶かし流してしまうとかはどうなんだ?」
「お、ホップにしてはなかなかいい意見だな」
「俺にしてはってのが、余計だな」
「それでリナリー、魔法で大量のお湯を作るのはなかなか複雑で難しいかな?」
アレンはホップの苦言を流しつつ、リナリーに視線を向けて問いかける。
「んーお湯を魔法で作る場合、水と火の魔法を二つ同時に使わないといけないの……出来ないこともないけど、今の私では正確な魔法の制御ができなくなっちゃう」
「そうか……アレは? 雪を集めて……熱湯にするってのは? そしたら、水の魔法を使う必要ないんじゃない?」
「なるほど、けど雪を集めるのって普通に雪かきするのと変わらないことない?」
「あ、確かにそうだ」
「一つだけ思い付いたんだけど」
「お、なんだ?」
「風属性の魔法で雪にいくつもの切れ込みを入れて……その切れ込みに風を吹き入れて屋根から滑り落とすってのはどうかな? 風属性の魔法ならだいぶ使い慣れているから、屋根を傷付けたりしないと思うけど」
「おお、いいな。それ……名案じゃないか?」
「まぁ、実際にできるか分からないし。練習も必要だろうけど」
「そうだが……凄くいい案だと思うぞ? どうしたんだ? リナリーらしくない熱でもあるのか?」
「ふん、失礼ね。私だってこのくらい思い付くわよ。あむ」
リナリーは言葉とは裏腹にアレンに褒められて嬉しそうにしながら手に取ったパンを千切って口に放り込む。
アレンはリナリーを感心した様子で見ていた。
最初、リナリーは教科書通りの魔法の使い方をしていたが、なかなか面白い発想をするようになったな。
これも持って生まれた才能か?
確かに魔法使いとしてまだまだ足りないところだらけだが……才能はあるな。
この小さな国、クリスト王国では……国を代表する魔法使いにまで行けるか?
そういえば、魔法の使える姉が居たんだっけ?
姉妹揃って魔法使いとは珍しいな……そういえば、この国って人口比辺りの魔法使いの割合が多いのかな?
サンチェスト王国では魔法使いが生まれてくる割合は一万人に一人と言われていたが……。
このクリスト王国は約八万人規模の国ながら、冒険者だけで見ても魔法使いは多いように思えるが……。
まぁ、統計は統計でしかないか。
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