第106話 噂が本当だった場合。

「噂だよな……」


 か細い声でアレンは呟く。そして、目を瞑って再び噂話に聞き耳を立てる。



「本当かよ? あそこには頭のおかしい兵団が居ただろ?」


「……その兵団の様子がおかしいんだと」


「様子がおかしいんだと?」


「あぁ、これは噂に過ぎないんだが……その頭のおかしい兵団の団長が交代して以降、主力だった副長三人とその部下達が次々に脱退したんだと」


「うわーそれはサンチェスト王国では多くの血が流れるな」


「あぁ、かも知れないな……ただ、その頭のおかしい兵団の副長の一人が新しく兵団を作ったって話だから当分は大丈夫かも知れねーが。戦争は何が起こるか分かれーからな」


「しかし、俺がサンチェスト王国の国民なら国外逃亡を考えるな……」


「それはそうだな」


「今思うと、サンチェスト王国は歪な国だったよな? たった百人しかいないと言われる頭のおかしい兵団……火龍魔法兵団におんぶにだっこでさ」


「まぁ、ウチの国も他国のことを言えないがな」


「確かに。もし帝国と戦うってなったら、ベラールド王国様との同盟ありきだもんな」



 ただの信憑性(しんぴょうせい)のない噂だよな?


 嘘だろ? いくらなんでも早いだろ。半年とちょっとしか経ってないぞ?


 ……しかし、万が一、噂が本当だった場合、サンチェスト王国はどうなる?


 噂通り、俺の居ない火龍魔法兵団から副長三人とその部下達が次々に脱退したって……そいつ等が火龍魔法兵団から脱退したら何が残るんだ? 最早、火龍魔法兵団が存在していないことと同義だよな?


 サンチェスト王国から火龍魔法兵団が無くなったら……どうなるか?


 最前線で火龍魔法兵団の団長として戦っていた俺には分かる。


 一年で、国土の半分辺りまで侵攻を受けて失い。もう一、二年で……王都を攻め込まれる。


 何もなければ、それでサンチェスト王国はおしまいだ。


 多くの人々が虐殺もしくは奴隷として扱われる。


 っ……今の俺にできることはあるのか?


 国外追放されているんだぞ?


 その国外追放は、サンチェスト王国の国王が判断したことだ。ならば、サンチェスト王国に俺の居場所などない。


 今の俺は軍を首になり、国外追放されて部外者であり……隠居の身であり……もう古い人間である。そんな俺が、今更出しゃばると逆にサンチェスト王国が混乱するかも知れん。


 では、今の俺にやれることは……なんだろうなぁ。強いて言うなら次世代である若者達を育て……応援して、信じて思いを託すことか?


 恐らく、国を救うには遠回り過ぎて間に合わないだろうが……。


 それでも、俺にはそれしか、あの国に対してやれることはない。


 正直、俺はサンチェスト王国の上に立っている一部の連中は大嫌いだった。


 ただ師匠が守り愛した国であり、俺自身もサンチェスト王国に住んでいる人々はハーフエルフの俺も受け入れてくれたし、好きだった。まぁ、たまにムカつく連中もいたが……。


 国などどうでもいいから……せめて、虐殺されて行く力無き人々を減らせたら……とは思うが。かなり難しい。


 んーサンチェスト王国の人々は国防の危機にどういう行動にでるのだろうか? さっき、噂をしていた冒険者見たく国外逃亡するとか?


 いや、しかし……国外逃亡したところで、サンチェスト王国の周辺諸国が国外逃亡した難民を快く受け入れてくれないだろう。


 それこそ、待遇は奴隷とそれほど変わらない……国を無くした者の待遇は良くないんだよな。


 あぁ、これは最早、一軍人だったの俺が考えたところでどうしようもない問題だな。


 ただ、この噂の行く末はさすがに俺も……ホランド達も気になるだろうから、追加で情報収集だな。


 そもそも、他国で聞く噂である……情報伝達の速度から考えて……もうとっくに手遅れになっている可能性だってある訳か。


 何にせよ。情報だ。


 ……情報はどこに転がっているだろうか?


 王城、教会、冒険者ギルドとか?


 忍び込むには面倒な場所ばかりだな。


「はぁー」


「どうしたの? 大きなため息? それになんか顔色もよくない?」


 いつの間にかアレンの近くにやってきたリナリーがアレンの顔を覗き込んだ。


「なんでもないよ。それでクエストの達成報告は済んだの?」


「終わったわ」


「そう」


「それでね。もうすぐ、冬になるから……今後の予定どうしようかしらね?」


「あぁ、そうだな。草刈りの指名クエストはまだ入っているのか?」


「ううん、冬も近くなって草刈りの指名クエストが減っているわ」


「冬だしな。雑草もそんな伸びんわな」


「そうね」


「……」


「……」


「……どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」


 黙っていながらもそわそわと何か言いたげな様子のリナリーにアレンは首を傾げて問いかける。


「あーえっと、けど、いや、まだ私達では扱えない内容だからやめておくわ」


「そうなの? それで内容は?」


「えっと、笑わないでね?」


「え? そんな内容なの?」


 リナリーはアレンの耳元に近づくと、ぼっそっと呟いた。


「ブレインの森に……青い鳥が居たらしいの」

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