第94話 銀老亭。

 ここは冒険者ギルドの前。


 冒険者ギルドの前も祭りの影響で普段よりも賑やかで、豚の魔物を丸焼きにしたものがふるまわれていた。


 人混みを縫うように抜けて、冒険者ギルドの前で待っていたスービアにホップが声を掛ける。


「はぁはぁ。遅れました」


「おせーよってホップ……ってそいつ大丈夫なのか?」


 ホップが話しかけるとちょっと怒った素振りを見せたスービアであった。


 しかし、顔を青くしてホップに背負われているアレンを見てすぐにその怒りを引っ込める。


「たぶん……おそらく大丈夫かと」


「そうなのか?」


「はい。アレンはすごく人がいっぱいいるところが苦手なようで……人が少ないところに行けば復活しますね」


「まぁ、ならいいが……そういえばリナリーはやっぱり駄目だったんだな」


「えっと、そうですね。どうしても外せない家の用事があるとかって」


「そうか、やっぱりつれねーぜ」


 残念そうに唇を尖らせるスービアを見て、ホップは苦笑する。


「ハハ……」


「まぁ、仕方ねーか。そういえば、ホップ、お前も俺に敬語なんて不要ねーぞ?」


「……気をつけるけど、難しいなぁ」


「ハハ、そこまで気をつける必要はねーけどな。さっさと飲み屋に行くか」


「そうで……だな」


 スービアとホップ、それからホップに背負われてうーともすーとも言わないアレンは飲み屋に向かうのだった。




「ここだ」


 冒険者ギルドからしばらく歩いているとスービアは人通りの多い通りから離れた銀老亭(ぎんろうてい)と言う店の前で立ち止まって、店の扉を開けて先に入って行く。ホップは店の外観を見ながら感心した様子で呟く。


「へぇ、なかなかいい感じの店だ」


「うっぷ」


 ホップが店の扉に手をかけたところで、背負っているアレンから嗚咽が聞こえてくる。ホップは背負っているアレンに話しかける。


「俺の背中では吐いてくれるなよ?」


「うっぷ」


「頼むからな? もう店だからな」


「う、っぷ」


 ホップがアレンを背負って店の中に入って行くと、すぐに強面のオッサンがスービアとホップ、アレンを出迎えた。


「ゼハハ、久しぶりだな。スービア」


「オヤジ、久しぶり。今日はライラちゃんはいるんだろうな?」


「あぁ、いるぜ。ただ、外の舞台とかにも掛け持ちだから、次の次くらいか登板は」


「そうか」


 強面のオッサンはホップとアレンに気付くと、目を見開いて驚き声を上げる。


「うお? まさか、そのガキ共はお前の連れか?」


「あぁ、そうだぜ? この前、指南役としていろいろ教えてやったんだ」


「ゼハ。お前が指南役か? そう言うキャラには見ないが……」


「失礼な。っと言いたいところだが、完全に気まぐれだったがな。こいつ等、なかなか面白い冒険者って噂になっていたからな」


「ほう、そうか」


「それで酒の良さも教えてやろうと思ってな」


「ゼハハ、確かに酒の良さは是非とも教えてやらんとな。しかし、女好きのお前がガキとはいえ男連れとはなかなか驚きだぜ」


「あのな。俺は女好きなんじゃなく、好みに当てはまるのがたまたま全員女だったってだけなんだからな?」


「ゼハ、それを女好きと言うんだがな。まぁ、飲んでけ。今日は外が祭りで客が少ないからな、ガキだろうが大歓迎だぜ」


 強面のオッサンはホップとアレンへと視線を向ける。


「……あのよ。さっきから気になっていたんだが、背負われているガキの方は大丈夫なのか?」


「あぁ、人が多すぎて、人酔いしたらしい」


「そうか。それは水を持ってきてやらんとな」


「あぁ。そうだな、それから注文もしとくか……とりあえず、エールを三つ。それから……今日はサイコロステーキ一人前とチーズ盛り合わせを貰おうかな?」


「おうよ。エールを三、サイコロステーキ一、チーズ盛り合わせ一だな。じゃ適当なところに座っててくれや」


 強面のオッサンがスービアから注文を聞くと、厨房へと向かって歩き出した。強面のオッサンが離れて行くのを見送りつつホップがスービアに問いかける。


「スービア、あの人って」


「あぁ、元A級の冒険者……山砕きのダルファーだ」


「やっぱり、なんかすごい強そうな気があったんだよな」


「あのオヤジはバカみたいに強い。冒険者は引退したと便宜上言っているが、たまにアルバイトでクエストを受けたりするから今後会うこともあるかも知れねーな」


「そうか。そうだな。あの人はそこら辺の冒険者よりも強そうだし」


「あぁ。まぁ、とりあえず、席に座るか」


 スービアとホップ、そしてホップに背負われたアレンは空いている席へと向かうのだった。

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