第91話 帰り道。

 ユーステルの森に入って三日目。


 ロックヘッドボアの討伐を終えたアレン一行はリンベルクの街へ戻るべく歩いていた。


「もう少しだから、頑張れリナリー」


 隊列の先頭を歩くアレンが、後ろを歩くリナリーに声を掛ける。


「はぁはぁ……アレン、さっきからずっともう少しなんだけど。いつになったら着くの?」


「……あと少しだから」


「そうね。はぁはぁ」


 リナリーが額の汗を拭ったところで、最後尾のスービアからも声がかかる。


「かか、あと少しだ。踏ん張れよ」


「はい……」


「そう、あと少しで当分は無理せずに遊んで暮らせるんだぜ? がんばれ」


「はい?」


「初めて魔物の領域に入って狩りをしたとは思えないほどの戦果だぜ? ぶっちゃけ、指南で入っている俺よりも稼いでいるで、当分仕事しなくてもいい生活だ」


 リナリーの後ろを歩くホップから「仕事しなくてもいい生活……いいなそれ」などと呟いているが、リナリーの表情を曇らせる。


「私達の目標は飛翼なんだから、遊んでいる暇はないわ」


「くく、そうなのか? それは大変だぜ?」


「望むところよ!」


「ふ……しかし、アレンは遊びたいんじゃないか? 女とか買ってよ」


「そそそ、そうなの? アレン!」


 リナリーはぎょっと目を見開いて、前を歩くアレンへと話を振る。


「……んーどうだろうな」


「アレン、駄目よ。アレンはまだ十二歳なんだから、女遊びでお金を使うのは駄目よ」


「そうかな?」


「ダメ人間になっちゃうわ」


「まぁ、どちらにしても俺は年齢的にそう言う店に入れない。……お酒は大丈夫なのに、何故かどこもそういう店には十八歳以上しか入れないんだよなぁ」


 アレンがそう言って苦笑を浮かべる。対してリナリーはどことなく安堵したような声で、ふーっと息を漏らした。


「そうね。そうよね。そうだったわ」


「あ、ユーステルの森の領域の目印が見えたぞ。ほら、もう少しだったろ?」


 アレンは木々の隙間から覗く、石が積み上げられた門のような建造物を指さして言う。それを見たリナリーの表情を緩めた。


「ほんとだ……あとひと踏ん張りね」


 それから、アレン達一行はリンベルクの街へと戻り、ギルドに報告を終えて解散することになった。

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