第92話 楽しかった。
アレン達がロックヘッドボアの討伐クエストの完了を報告しに行った数時間後。
スービアが冒険者ギルドのギルドマスターが使う執務室に訪れていた。そして、テーブルを挟んでギルドマスターと向き合う形でソファに座っている。
スービアは愉快そうに笑って口を開く。
「ふは、まさか指南役をやっただけで、ギルドマスターに呼び出しを食らうとは思ってもみなかったぜ?」
「まぁ、いろいろあるんだよ」
「なんだ、アイツら、訳ありなのか?」
「そんなところかな?」
「おいおい、冗談のつもりだったんだが?」
「いやいや、冗談だ」
「なんだよ」
「ハハ、それで今回指南役として同行した期待の新人君達はどうだった?」
「……俺としては想像以上に出来上がったパーティーだった」
「お前がそこまで言うほどか」
感心したような表情になったギルドマスターは顎先に触れた。
「ギルドが期待をかけるだけの才能は感じた。リナリーはもしかしたら、姉ポーラを超える魔法使いに成長するかも知れないな。器用に魔法を使う。それに手裏剣と言う投擲武器に風属性の魔法陣を刻んで行使する魔法はかなり強力だ」
「手裏剣……あぁ、火龍魔法兵団に同じ武器を使う魔法使いがいたはず……それを真似たんだろうか?」
「見た感じ、相性があるがC級の魔物……下手したらB級の魔物にも通用するだろうぜ」
「それは、前に聞いた報告以上だな。二カ月ほどでそこまで成長したということかな? 素晴らしい」
「あぁ、実力的に見たら恐ろしいガキ共だぜ?」
「ガキ共と言うことは相方の……えっとアレン君だったか? 彼も戦闘面で優秀なのか?」
「なかなかの動きをしていたと思うぜ? ロックヘッドボアが突進してきても……鈍感なのか怯む様子もなく、盾で攻撃受け止めていたからな」
「……C級の魔物ほどの猛獣が突進してきたら、大の大人でも足すくみ逃げ出すと言うに素晴らしいじゃないか。彼は優秀な盾役だったのか」
「ただ、鈍感なのかも知れないが」
「ハハ、いいじゃないか。気付かない方が良いこともある。しかし、少人数過ぎるな、さすがに移動、野宿は苦労したんじゃないか?」
「確かに苦労していたな。リナリーの体力は一般人くらいだった。ただ、今回俺は指南役として付いて行って口は出したが、ほとんど手を貸す場面がなかったぜ?」
「ほぉ」
「ただ、それはアレンと……それから一応ホップが居たからだろうな」
「ん? ホップ? 誰だ? それは」
「あぁ、今回臨時で雇ったソロの冒険者だ。ゴールド何とかというパーティーを脱退したとか言っていたな。銀翼に今後加入するみたいだったぜ?」
「ゴールド何とか……? あぁ、ゴールドアックスと言うB級の冒険者パーティーだな。確か、銀翼と同期のメンバーがリーダーを務めているんだ。そうか、脱退者が銀翼に流れたのか」
「ホップは雑用係として今回同行していた。B級の冒険者がC級の冒険者パーティーの雑用をしているのはなかなか皮肉だが、馴染んでいたよ。戦闘面はまだまだ全然のようだが、いろいろ気が利くし、何よりも料理が美味いな。冒険者パーティーにはそういう奴が居るか居ないかで、成果がだいぶ変わってくるもんだからな。いい人選だと感心したぜ」
「ふむ、そういうことか。確かに魔物の領域での生活には戦闘以外のところも重要となるからな。そうか、大体わかった」
「報告はこのくらいか? んじゃ、俺は帰るかな」
立ち上がろうとしたスービアをギルドマスターが引き止めるように手を前にだした。
「まてまて、まだ終わってないぞ?」
「あん? まだ何かあるってのかよ」
「あぁ。スービア、お前はいつまでソロで冒険者をしていくつもりなんだ? 飛翼にも戻るように誘われているんだろ?」
「は、それは俺の勝手だろ? ソロは気楽でなかなか気に入っているんだぜ?」
「君みたいな優秀な冒険者が、簡単なクエストをこなしているだけではもったいないんだがね」
「そう言われても、冒険者の唯一いいところは自由なところなんだぜ?」
「はぁ、そうか。残念だな」
「それじゃーな」
スービアはソファから立ち上がって、執務室の出口である扉へと向かって歩き出す。
ただ、執務室の扉のドアノブに手をかけたところでピタリと止り、再び口を開いた。
「しかし……リナリー達とパーティーを組んでした冒険はなかなか楽しかったぜ」
ギルドマスターがその言葉を聞いてスービアに視線を向けると、スービアは扉を開けて執務室から出ていってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます