第88話 挑戦。

 ユーステルの森に入って二日目。


 早朝、ユーステルの森の中を昨日と同じようにアレン、リナリー、ホップ、スービアの順で隊列を組んで歩いていた。


「ふぁ、眠たいわね」


 口元に手を当てて欠伸をしながらリナリーはアレンの後ろを歩く。対して、小さく笑ったアレンは後ろを歩くリナリーに問いかける。


「ふ、リナリーはあまり眠れなかった?」


「そうね。体にだるさがあるわ。魔物が襲いくる度に起きたからなかなか寝付けなかった」


「昨日の夜は魔物が二体も現れたもんな。まぁ、俺はしっかり眠れたけどね」


「でしょうね。少し寝息が聞こえていたし……」


「そうか? だけど寝れる時に寝とかない辛いよ」


「そうね……それにしてもアレンは元気よね」


 リナリーは少し呆れたような表情で、前を歩くアレンに視線を向ける。


 今、アレンは盾と自分の荷物……それに加えてリナリーが昨日持っていた荷物の半分を持っているのだ。


「俺は力持ちだからね。それに森歩きは苦手じゃない」


「そうなのね。もっと鍛えないと……それと、私も近接戦闘ができる武器を使えるようになった方が良いかしら?」


「ふ、急にどうしたの?」


「……えっと、私だってユーステルの森に入ってから、いろいろ考えているのよ。私ってマナを使い切ったら、完全に役立たずなのよね……ホップ以下よ」


「おい、なんか俺を罵る声が聞こえる」とリナリーの後ろを歩くホップから小言が聞こえるが、アレンは聞き流して問いかける。


「ハハ、確かにホップ以下は拙いな。確かにリナリーには必要かも知れないな」


「また、罵る声が」とホップから小言が聞こえるが、聞き流してリナリーは考える仕草を見せる。


「剣とかが良いかしら? それともナイフとか……」


「んーそうだなぁ。あ……リナリーの場合、アレがあるじゃん」


「アレって何よ?」


「この前見せてくれた魔法で使っていた手裏剣」


「? 魔法を使わずに投擲しろってこと?」


「普通に投擲するのもありだと思うけど……手裏剣を少し大きく形を変えたりしたらナイフみたいに使える武器にならないかな?」


「……ちょっと検討してみるわ」


「ふぁーおいおい、あまり気を抜き過ぎてるんじゃねーか? ここはロックヘッドボアの縄張り……ベツラム山の麓あたりの密林に入っているんだぜ」


 隊列の一番後ろであるスービアが大きく欠伸をして、一番気の抜けた声を出しつつ、アレンとリナリーを注意する。


「ん、そうだね。あ、待って」


 アレンは声を狭めて、停止するように後ろを歩くリナリー達に声を掛ける。すると、アレンと同様に声を狭めたリナリーが問いかけた。


「何か居たの?」


「あぁ、変な頭の形をした猪みたいなのが木の間から少し見えた……ちょっと、静かに後を追ってみるか」


「そうね」


 アレン達は見つけたロックヘッドボアの後を追って、ユーステルの森の中を進んでいくのだった。




 十分ほど見つけたロックヘッドボアの後をアレン達が追っていると、ロックヘッドボア

は大木に体をこすりつけ始めた。


 どうやら、大木に自身の匂いを付けてマーキングしているようである。


 アレンが草むらからロックヘッドボアの様子を伺いながら、リナリーに問いかける。


「どうする? 罠を張って捕えるのが一般的とされているみたいだけど、リナリーは魔法を試して見たいんだよね?」


「そう……ね」


「出来そうか?」


「……思ったより皮膚が分厚そうよね」


 アレンは躊躇するリナリーの背中をポンと軽く叩く。


「ここまで来たら挑戦してみたら?」

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