第76話 指南役。
アレン達がしばらく受付カウンターに並んでいると、順番が回ってきた。受付カウンターにいたベルディアがすぐにアレン達に気付いて声を掛けてくる。
「次の方……あら、リナリーにアレン君。今日は揃ってどうしたの?」
ベルディアの問いかけに、リナリーが口を開いた。
「……えっと、魔物の討伐クエストを受けようかと検討しているんだけど。確か初めて魔物の領域に入るクエストを受ける時は指南役が付くんだっけ? その辺のことを聞きに来たんだけど」
「あ、そうね。C級の冒険者になって、ようやくなのね」
「よくいうわよね。来るたびに草刈りの指名クエストが入っていたら、なかなか他のクエストは受けられなくなるよ」
「ハハ、そうね。けど、リナリー達の仕事ぶりが評価されているのよ?」
「私は少なくとも草刈りをやるために冒険者になった訳ではないもの。草刈りの指名クエストが減ることを願うわ」
「もう、そんなこと言わないの。毎回言っているけど指名クエストは冒険者にとって名誉なことなんだから」
「むむ、名誉って草刈りなんだけど」
リナリーは不満げな表情を浮かべた。そのリナリーの様子を少し苦笑しながらベルディアが軽く窘める。
「草刈りだけど、そうなのよ」
「まぁ、いいわ。それよりも今は受けようと思っているロックヘッドボアの討伐クエストについてよ」
「えっと、ロックヘッドボアの討伐クエスト……」
ベルディアは受付カウンターの中にあった棚から資料を取り出す。そして、その資料に目を通すと目を見開いて驚きの表情になった。
「ちょ、ちょっと待って。ロックヘッドボアはC級の魔物じゃない! 貴女達はC級の冒険者になったばかり、しかも初めての魔物討伐に選ぶ魔物の階級じゃないわよ? C級の魔物って……。リナリーがいくら使えるからってまだ危険じゃないかしら?」
「わかっているわよ。だから、検討しているって話に来たんじゃない」
「? どういうこと?」
「クエストを受ける前に、ロックヘッドボアを偵察して見てからクエストを受けるか検討しようかなって。偵察するのもダメなわけ?」
「ん? んーん? 討伐のクエストを受けずに偵察だけ?」
「まぁ偵察して……もし倒せそうなら討伐して、帰って来てからクエストを受けるかもだけど」
「んー冒険者ギルドとしてはあまりやって欲しくないわね。もしクエストを受けずに魔物の領域に入って、数日帰って来なかった時に捜索出来ないじゃない」
「そっか、それは困るか……。じゃ、冒険者ギルド的にはどのクエストがいいのかしら?」
「それは……えっと、シェルスライムの討伐もしくはダンスリーフの討伐じゃない? 両方ともD級の魔物だし。指南役の冒険者が居れば、まず失敗することもないわ」
ベルディアは受付カウンターの中にあった棚からシェルスライムとダンスリーフの資料を取り出す。そして、カウンターの上に乗せてアレン達に見せる。
「シェルスライムに……ダンスリーフね。どうしようかしら……アレン?」
口元に手を当てて考える仕草をした後。リナリーは隣で黙って話を聞いていたアレンに視線を向ける。
「……えっと、どんな魔物だっけ? シェルスライムとダンスリーフは?」
アレンはベルディアがカウンターの上に出した資料を目にして、考える。
どっちもよく見かけていたから弱いのは知っているが……どんな魔物だったんだろうか?
えっと、何々……。
シェルスライム。D級の魔物。
討伐完了を確認する部位は殻。
買取可能な部位は魔石。
生息地はユーステルの森のルート川近辺や水辺に生息している。
二十センチくらいの大きさ。
弱い酸を放出するが、ほとんど危険性なし。ただ、すぐに殻にこもってしまうので、投擲に武器なんかで、遠距離、中距離攻撃の攻撃で仕留めることを推奨。
ダンスリーフ。D級の魔物。
討伐完了を確認する部位は頭部の双葉。
買取可能な部位は魔石。
生息地はユーステルの森にあるベツラム山の麓あたりの密林。
二十センチくらいの大きさ。
葉っぱの先に刺あり、その刺が刺さると、若干の痺れがあるがほとんど危険性なし。逃げてしまう前に鋭い刃物で切り裂いて仕留めるのを推奨。
へぇーあの貝に入ったスライムって弱い酸を吐くのか? それから、あの踊る草の魔物は葉っぱのところの刺に刺さると痺れるんだぁ。知らなんだ。
とは言え……。
「……どっちでもいいんじゃないかな?」
「じゃ……どうしようかしら?」
アレンにどちらでもいいと言われてしまい、リナリーは困った様子で考え始める。その様子を見ていたベルディアが口を開いた。
「えっと、ちょっと待って。どちらにしても魔物の討伐に行くことには変わりないのね?」
「それはそうね」
ベルディアの問いかけにリナリーが頷き答えた。
「じゃあ、指南役を手配するわね。ちょっと時間が掛かるかも知れないわ」
「そっか、そうなのね。どのくらい時間が掛かるの?」
「……指南役の冒険者の都合にもやるけど、七日くらい待つわね」
「じゃ、七日後に一回ここへ来ればいいのね?」
その時だった。
「おい、その指南役は俺が受けてやるぞ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます