第60話 冒険者。
アレンとリナリーが銀翼として活動を始めて、一カ月が経った。
その日もリンベルクの街内の貴族や大商人が住んでいる地区のあるゴーウフ子爵の屋敷に出向き、草刈りのクエストを受けていた。
早々に、リナリーの魔法で草刈りを終えると、依頼者であった五十代くらいのメイドさんを呼んで草刈りを終えた庭を確認してもらっていた。
「マルダさんの言っていた通り、早くて綺麗な仕上がりね」
「では、クエストは完了と言うことで?」
「いいわ」
アレンが差し出したペンと書類を依頼人の女性は受け取ると、さらさらと自身のサインと評価を書いていく。
ちなみに、リナリーもアレンの隣に居るのだが、黙って聞いている。
銀翼として活動を始めて一カ月経ち、依頼人との交渉はアレンに任せるようになっていた。
「マルダさんと言うのは……ビルロット男爵家のメイドさんだったかな?」
「そうよ。仲良しなの」
「そうなんだ。あ……だから、指名クエストしてくれたのかな?」
「そうよ。指名依頼は少し割高になっちゃうけど。これは指名したかいがあったわね」
「ハハ、まさか指名クエストが来るなんて思ってなくて驚いたよ」
「ふふ、それはごめんなさいね。けれど、こういうの、しばらく続いちゃうかも知れないわね。マルダさんは結構顔が広いから」
「そうなんだね。それは嬉しいかな、ギルドの評価が上がるみたいだし。あ、これはマルダさんから聞いちゃってるかな? 刈り取った草……ゴミに出すのも大変なら俺達が引き取るよ? これはもちろんサービス」
「ふふ、頼めるかしら?」
「じゃあ、引き取るね」
アレンは草がパンパンに詰まった麻袋を二つ持ち上げてみせる。
「あら聞いていた通り、見かけによらず、すごい力持ちなのね」
アレンが軽々とパンパンの麻袋を持ち上げたところをみて、依頼人の女性は目を丸くして驚きの表情になる。
「農作業で鍛えられているんで……。では、またよろしく。ほら、リナリー行くよ」
アレンとリナリーは軽く頭を下げて、ゴーウフ子爵の屋敷を後にするのだった。
ゴーウフ子爵の屋敷から帰る道中、ゴミ捨て場によって、アレンは麻袋に入った先ほど草刈りで出た草を捨てていた。
「これでよしっと」
「今日は珍しい薬草はなかったのね」
「まったくなかった訳ではなかったけど少なかったね。じゃ行こうか」
アレンは麻袋を畳んで、鞄の中に仕舞うと、リナリーに声を掛ける。
そして、アレンとリナリーはリンベルクの街の通りに出て、歩き出した。
「あー今日は黒熊討伐クエストを受けようと思ったのになぁ」
リナリーが不満げな様子で呟いた。リナリーの様子を見てアレンは苦笑した。
「ハハ……指名クエストだったし。ベルディアさんからも最優先した方が良いと言われたし」
「そうだけど……珍しくD級の魔物相当の黒熊の討伐クエストがあって」
「そこは時の運だから。けどさ、ベルディアさんはD級の冒険者で指名依頼は何十年かぶりだと言っていたよ。すごいじゃないか?」
「それは、そうね……ってただの草刈りだけど」
「確かに草刈りだけど。さっきの魔法は良かったじゃないか? かなり操作精度上がっていたし」
「え? あ? ふふ、そう? 最近、あの円筒形の風の刃を二つまで自在に操作できるように練習しているのよ?」
「へぇーそうなんだ。リナリーって思っていたより、器用に魔法を使えるんだな」
「ん? なあに? それは褒め言葉?」
「褒め言葉だよ。あの風の刃が自在に扱えるなら、普通にすごいと思う」
「でしょ? だから、それを試したくて、討伐系のクエストを受けたかったんだけど」
「んーあの魔法は……討伐系のクエストであまり使わない方が良いかも知れないよ?」
「え? そうなの?」
「うん、単純な戦闘には使えるだろうけどね」
「? じゃあ、いいじゃない?」
「確かに討伐系のクエストは対象の獣や魔物を討伐すればクエスト達成になる。だけど、討伐した獣や魔物は基本冒険者側に権利が発生して毛皮とか鱗とかの素材を売って報酬を得られる。それは分かるよね?」
「そうね。講習会でも言っていたし。それがどうしたの?」
「あの風の刃で毛皮とか鱗とかを傷だらけにしちゃわないかな? もし、傷だらけにしちゃうと買いたたかれるんだけど」
「なるほど……稼ぎが減るってことね」
「そう言うこと。あの風の刃はもちろん単純な勝負や素材とかが取れない獣や魔物には有効だと思うよ」
「じゃあ、どうしたらいいかしら?」
「出来るなら、獣や魔物の傷口は小さくしとめしたいね」
「傷口を小さくしとめる……じゃ、獣や魔物の急所を的確に攻撃する魔法とか?」
「そうだね。それがいいかな。ただ、獣や魔物の素材とかに気を取られて、逆に攻撃を受けるってことは避けたいけどね」
「魔法の発動までの時間も絞りたい……なるほど、なるほど、次に集まる時までにいろいろ考えておくわね」
「そうだね。こればかりはリナリーがイメージさせやすい魔法が良いな。あっと、ここだ。ここだ」
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