第59話 ギルドマスター。

 ここは冒険者ギルド内の一室。


 その部屋の中では眼光鋭い男性が一人デスクで仕事をしていた。


 トントントン。


 部屋の扉をノックする音が部屋の中に響いた。


 眼光鋭い男性は資料から視線を動かすことなく、口を開いた。


「何かな?」


「ギルドマスター、今月の新人についてご報告を……」


「そうか、入りなさい」


「失礼します」


 ベルディアが室内に入ってきて、ぺこりと頭を下げる。そして、スタスタとデスクの前にまでやってきた。


「今月の新人はどうかな? 確か期待の新人が居るんだったか? もうすぐ一カ月、そろそろ見えてきたんじゃないか?」


「どうですかね。えっと、新人は大まかに二つのパーティーに分かれました。こちらがそれぞれのメンバーリストです」


 ベルディアがデスクの上に資料を置いた。


 その資料を眼光鋭い男性……ギルドマスターはすぐに資料を手に取って、ペラペラを捲り読み始める。


「なになに? 大勢の冒険者を囲い込んでいて……ルーカスをリーダーに据えたゴールドアックス、対して少数二人組……リナリーをリーダーに据えた銀翼か。確かリナリーと言う子が飛翼の妹で魔法使いか?」


「そうですね。その二人組のもう一人も不確認ですが、初級の魔法が使えるようです」


「何? 魔法使いが固まってしまったか」


「まぁ……実力者が固まるのは世の常ですから」


「魔法使いは一人でもパーティーに居てくれるとパーティーが安定するのだが……冒険者は命がけの職業だから仕方ないか」


「ですね」


「それで、リナリー……リナリー・ファン・ク「ギルドマスター、彼女の身分については話さない約束だったのでは?」


 ギルドマスターがリナリーの名前を言おうとしたところで、ベルディアが遮るように声を上げた。


「うむ、迂闊だったな」


「こんな密室で漏れることないでしょうが、不意に漏らしてしまうかもしれませんから。その名で呼ぶのはもうやめた方が……」


「そうだな。貴族連中の考えていることは分からんな……しかし、飛翼の姉もそうだが、優秀な冒険者が増えるのならいいのか。それでどんな子だった? 魔法はどの程度使えそうなのだ?」


「中級の魔法は完全に使いこなしているようです。気配消しの上手い元冒険者の職員に陰でクエストを達成する様子を見張らさせていましたが、魔法で作った小さな風の刃を器用に操作して、草刈りしていたとのことでした」


「ハハ、草刈りに魔法を使うか。しかし、彼女は十四歳だったはず、その年齢で魔法を器用に扱うことができるなら、将来が楽しみだな」


「ええ、そうですね。器用に魔法を扱える使える魔法使いは貴重ですから」


「それで、もう一人の魔法使いはどんな子なんだ? アレン、十二歳としか書いていないが?」


「アレン君ですね。先月、親御さんのお遣いでこの街にやってきた子です。街の外の農村に住んでいる子のようなので……言葉も拙いところがあってあまり精確な情報はありません。もともと罠を使った狩りが得意のようで、その狩りで得たゴーホ鳥やウサギを売っていました」


「そうか、まぁ……街外の子はどうしても言葉の習熟度は低くなるな。ちゃんといろいろ教えてやれよ? 特に、金に関わることはしっかりな。十二歳……罠を使った狩りでガーホ鳥やウサギを捕まえられるなら優秀な冒険者になれるだろう」


「そうですね。分かりました」


「それで、二つのパーティーの実績はどうだ?」


「えっと、二つあるパーティーは両極端ですね。ゴールドアックスは在籍するのが三十人居るので、手分けしてクエストを凄まじい速度で達成しています。C級の冒険者目前です」


「……そうか。ギルドとしてはC級、D級をあまり効率的に抜けずに、装備を整えてじっくり実力をつけて欲しいところなんだが」


「そうですね。ただ、言っても聞く耳を持ってくれないようで……」


 ギルドマスターは疲れた表情で、椅子の背もたれに体を預けた。


「冒険者は自己責任か……痛い目に合わないと理解できんのかもな。願うなら彼らが死なないでいてくれることを祈るしかないな」


「……そうですね」


「それで、もう一つのパーティー……銀翼はどうなんだ?」


「銀翼は二人しかいないのと、両名ともに実家住みなのでクエストを受けるのを七日に三日だけにしているようで、あまりクエストを受けることができていませんね」


「それはまた少ないな。本当に両極端だ」


「ただ、クエストの依頼人の話では仕事は早くて、丁寧だったと話でかなり好評ですね。実際、クエスト内容は草刈りではありますが、D級の冒険者にはかなり珍しくゴーウフ子爵家から指名依頼来ました」


「ハハ、魔法で草刈りは好評だったか。しかし、D級の冒険者が指名依頼か……これは何十年ぶりだな」


「はい。そうなりますね。正直、彼らにはもう少し稼働を増やして欲しいと思うくらいです」


「ハハ、そうだな。しかし、実家暮らしとはいえ、七日に三日だけ冒険者の稼働で生活はちゃんと送れているのか?」


「えっと、あの二人は今月だけ見たら……そこら辺のB級の冒険者よりも稼いでいますよ」


「ん? どういうことだ?」


「クエストとは別に【ヒポルテ草】始め高価な薬草を大量に持ち込んで買取に出していましたから」


「【ヒポルテ草】が持ち込まれたのは聞いたが、彼等だったのか……銀翼の二人のどちらかに高価な薬草を見分けられる目を持った者が居るのか」


「おそらくアレン君ですね。山には祖母と入っていて、良い薬草を習っていたと言っていましたから」


「そうか。狩りの他に薬草を見分ける目か……それは素晴らしい人材だな。近年、薬草不足が商人や工房から文句が出ているし……。これはベルディア君が言った通り、もう少し稼働を増やして欲しいところだな」


「まぁ、冒険者が自己責任であるということは……基本的に何かを強要することはできませんから」


「その内頼みたいクエストができるかも知れん。それとなく、恩を売っておくのもいいかも知れんな」


「ふふ、売れる恩も限られてしまっているんですよね。なんせ、彼らにはお金があるんで」


「そうか。金があったら、だれも頑張ってギルドにわざわざ来て働く奴なんて居ないよな。まぁ……何にせよ。時間が取れる時に俺も彼らには一度会ってみたいものだな」


「そうして、いただけると。報告は以上ですかね」


「報告ご苦労。ベルディア君」


「では、失礼します」


 ベルディアはギルドマスターにぺこりと頭を下げて、部屋から退室して行った。

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