第53話 初仕事。
アレンが冒険者ギルドで講習会から一週間が経った。
アレンとリナリーは、リンベルクの街内の貴族や大商人が住んでいる地区にあった大きな屋敷……ビルロット男爵家の屋敷にやってきていた。
「では、よろしくおねがいしますね」
草刈りのクエストを冒険者ギルドに依頼した四十代くらいのメイド服を着た女性が一言アレンとリナリーに声を掛けて、家の中に入っていった。
アレンは依頼人の女性を見送ると、アレンはリナリーに視線を向けた。
「本番だよ。できそう? リナリー」
「ふ、できるに決まっているじゃない」
「ブレインの森で街から近場の草むらはほとんど刈りつくしていたからね」
「そ、そこまでじゃないでしょう。私は少し練習しただけだから」
「少しだった?」
「少しだったわ!」
「……そうか。じゃあ、さっさと終わらせちゃおうか?」
「分かったわ。見てなさいよ……」
リナリーは右手を上向きに広げて、左手は右の手首をつかんだ。
そして、集中するように自分の右の手の平を見つめる。
「ふぅー……【エアーカッター】」
リナリーは風属性の魔法である【エアーカッター】を唱える。
辺りにしゅるしゅると音を鳴らしながら、リナリーの手の平の上で視認できるほどに空気が高速で回転させて円盤状の風の刃が出来上がる。
「はっ!」
リナリーが小さく掛け声をあげると、手の平の上にあった円盤状の風の刃が動き出した。
その円盤状の風の刃は……多少、荒いところはあるが、ずいぶんと上手く庭に生えていた雑草を刈り取っていく。
五分もしない内に、庭に生えていた雑草をすべて刈り取ってしまった。
「ふぅー……終わったわ」
「じゃ、草を集めているから、リナリーは休んでいてくれ」
「そこまでする必要あるの? 私達は草刈りするだけでしょ?」
「……まぁサービスだよね。やっぱり、刈った草が散乱しているより、見栄えがいい方が評価も高いでしょ?」
「けど、一回の依頼金銅板十枚しかもらえないのよ? そこまでサービスする必要はないと思うけど」
「毎回やるか分からないけどね。まぁ……いろいろあるんだよ」
「? まぁいいわ、私は少し休んでいるわね」
「あぁ」
リナリーは首を傾げながらも、庭に置いてあった石に座った。対して、アレンはリナリーが刈り取った草を持参した麻袋に手早く入れていった。
草刈りの作業がすべて終わったところで、クエストが終わったことを確認してもらう為に、依頼人の女性を呼んだ。
依頼人の女性は感心した様子で一度庭を見て回ると、アレンとリナリーに声を掛けた。
「綺麗になって……しかも、すごい早い。びっくりね」
「当り前よ。私がやったんですもの」
アレンの隣にいたリナリーが自慢気な様子で胸を張った。
「最初は……正直、少し不安だったけど」
「な、何よそ……うぐ」
「ハハ……まぁ、駆け出し冒険者はちゃんと仕事するか不安だよね」
アレンは失言しそうなリナリーの口を素早く押えて、苦笑を漏らしながら口を開いた。
ちなみに、アレンは登録した年齢的に敬語を使うのは違和感があると思って、あえて依頼人には敬語を使っていない。
若くに駆け出し冒険者と言う設定のアレンが敬語を使わないことについて、依頼人も慣れているのか、気にした様子はまったくなかった。
「ええ。けど、いい仕事だわ」
「では、クエストは完了と言うことで?」
「文句の付けどころがないわね。また頼みたいわ」
アレンが差し出したペンと書類を依頼人の女性は受け取ると、さらさらと自身のサインと評価を書いていく。
「ごめんなさいね。私としては評価Aを付けたいところなのだけど……」
今回の評価はBであった。
クエスト完了した際に依頼人が付けてくれる評価はA、B、C、D、Eの五段階で分かれている。
評価Aは満足。文句の付けどころのない。完璧にクエストを完遂した。
ただ評価Aは滅多に出ない。なぜなら、評価Aを付けた場合に割増しで冒険者にお金を支払うことになっているからである。
評価B、満足。クエストをちゃんとこなした。
割増金は発生しない。
評価C、普通。クエストはちゃんとこなした。
割増金は発生しない。
評価D、不満。クエストはこなした。
割増金は発生しない。
評価E、不満。クエストの不履行。
違約金が冒険者側に発生する。また、降級の可能性も。
以上、五段階評価の基準となっている。
よって、アレン達がもらった評価Bというものは冒険者が普段もらえる評価の中で最上とも言えた。
「いえ、ありがとう。あ、そういえば、刈り取った草……俺達が引き取ろうか? ゴミに出すのも大変でしょう? あ……これはサービスだよ?」
「あら、いいの? では、頼めるかしら」
「じゃあ、引き取るね」
アレンは草がパンパンに詰まった麻袋を二つ持ち上げてみせる。
「あら、すごい力持ちなのね」
「え、何て馬鹿力してるのよ」
アレンが軽々とパンパンの麻袋を持ち上げたところをみて、依頼人の女性とリナリーが目を丸くして驚きの表情になる。
「ハハ……農作業で鍛えられているんで……。では、またよろしく。ほら、リナリー行くよ」
アレンとリナリーは軽く頭を下げて、ビルロット男爵家の屋敷を後にするのだった。
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