第52話 草刈魔法。

 アレンとリナリーはブレインの森で高い草の生えた場所に訪れていた。


「何するのよ。こんなところで」


 リナリーが不満な様子でアレンへこぼした。


「え、草刈魔法の練習が居るんじゃないの?」


「そんなの大丈夫よ。私の風属性の魔法は強力だもの」


「けど、仮にクエストを受けてから失敗したら……依頼人の評価が低くなってしまう? それは困るんじゃないの?」


「う……いいわ。見てなさいよ」


 リナリーは草むらへと視線を向けて、一度ふぅ……と長く息を吐いた。


 そして、両腕を広げて構えた。


「【エアーカッター】」


 リナリーが風属性の魔法【エアーカッター】と呟くと、広げて構えた両手に透明な湯気が纏わりつく。


 そして、両手を勢いよく振り抜いた。


 両手を振り抜くと、風の刃が発生させて、リナリーの正面にあった草むらを木々ごと切り裂いて見せた。


「ふう、どうかしら? 私の魔法は」


 リナリーはシタリ顔でアレンの方を見る。ただ、アレンは切り裂かれた草むらへとスタスタと歩いて向かった。


「凄いな」


「そうでしょう。そうでしょう」


「……けど、これじゃ駄目だよ。リナリー」


「え!? 何がよ!」


「俺達がこれから受けるクエストは草むしりであって……木を刈り取れと言うクエストではないからね」


「何よ。ちゃんと草も刈れているからいいでしょ?」


「もし庭に生えている木が依頼人の大切な木だった場合……報酬どころか罰金が取られるんじゃないかな? もちろん、依頼人の評価は最低だろう」


「じゃ、どうすればいいのよ!」


「……どうしようか? 他に魔法はないの?」


「んー……じゃあ、火属性の魔法で地面を伝うように、草を焼き尽くすってのはどう? それなら、木を燃やさずに済むわ」


「地面が黒焦げにならない?」


 アレンの問いかけに、リナリーは視線を逸らした。


「……なるわ」


「駄目じゃない?」


「そうね。じゃ……どうすればいいよ」


「……さっきの鎌のような風属性の魔法を小さくしてもいいから正確に操作して、草を刈り取れない?」


「か、簡単に……言ってくれるわね」


「リナリーのお姉ちゃんならできるんじゃないの? コツとか、教えてもらえないかな?」


「……嫌よ。お姉ちゃんから魔法を教えてもらうなんて」


 リナリーは不満げな様子を隠すことなく唇を尖らせて、そっぽを向いた。


 そのリナリーの様子を見て、アレンは姉との確執を感じ取る。そして、説得方法を変えてみる。


「本当に出来ないの?」


「……」


「さっきのリナリーが使った魔法は凄かった。アレだけの魔法が使えるならリナリーは魔法使いとしての才能は凄いんじゃないの?」


「……」


「だったら、少しの練習で出来ちゃうんじゃない?」


「……仕方ないわね。私はお姉ちゃんを超える魔法使いなんだから、すぐに習得してみせるわ!」


「お、やっぱりそうなんだ。さすがだな。じゃ次に会う時にまでにはできているかな?」


「駄目よ。今からやるの。アレンも同じパーティーメンバーなんだから、とことん付き合ってもらうからね」


「え? 今からやるの?」


「もちろん」


 やる気を見せたリナリーの魔法の修行に付き合い、アレンはその日遅くに帰ることになったのだった。

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