第50話 部屋を出る。
講習会が終わり、ギルド職員が出て行った。
そこで、アレンが上に腕を伸ばして、グッと体を伸ばす。
「んん……さて、帰ろうかな」
アレンが立ち上がろうとした時だった。
アレンの前に座っていた金髪の男性がザッと立ち上がった。
そして、椅子に座る冒険者達の前に立った。
「俺はルーカス・ボルメーである。お前ら、俺とパーティーを組まないか?」
突然、金髪の男性……ルーカスがそう言い放ちA-2号室内が騒然となった。
騒がしくなったところで、ルーカスが持っていた剣の鞘の先端をガスンと床にたたき付ける。
すると、騒がしくなったA-2号室内がシーンっと静かになって、ルーカスに視線が向く。
「俺はリンベルクの街を囲う西門の兵長である親父の息子でそれなり剣の腕がある。俺はさっさとB級の冒険者になって、金のいいクエストに挑戦したい。しかし、クエストを評価B以上で三十回こなすには時間がかかってしまう。では、どうすればいいか、大勢とパーティーを組んだ方が冒険者の階級を一気に上げるのには効率が良くすればいい。お前達もそう思わないか? それに、剣の腕に自信がある俺と一緒に居れば……難度の高いクエストも容易いだろう?」
ルーカスは剣を鞘から引き抜いて、掲げてみせた。
アレンが視線を巡らせて、他の冒険者に視線を向ける。すると、ほとんど冒険者がゴクンと息を飲んだ。
「それで、俺のパーティーに入る奴は……前にでろ」
ルーカスがそう言って、冒険者達へ視線を向けた。少し間が開いて、一人のぼろい格好の少年が前に出る。
すると、次々に他の冒険者達もルーカスの元に集まって行く。
アレンはルーカス達の様子を見ながら口元を押さえて考える。
んー相当の自信家のようだ。
装備はそれなりだが、ただ残念ながら実力が伴っていない。
俺と出会った時のホランドと比べてもルーカスの実力はかなり低いところにある。
その実力差は成長前の子供を大勢集めたところで埋まるものではない。
ホランド一人で全員を伸してしまえるほどに実力差がある。
後で聞いたのだが、ホランド達はサンチェスト王国内の冒険者ギルドで若手のホープと呼ばれるくらいの実力があったということから、比べるのは可哀そうであるのだが。
ただ、ルーカス等と、ホランド達とで大きく違うところは、別になるな。
それは実戦で痛い目にあっているか、あっていないかである。
まぁ、ルーカス達にとっては若いうちにちょっと痛い目にあうのはいい経験だよな。
俺の実力を隠しながら冒険者をするいい隠れ蓑になるかも知れんが……俺が若すぎるルーカス達の中に居たら、その痛い目にあうといういい経験を積む機会を奪ってしまうかも知れない。
アレンはそう考えて、椅子から離れて、A-2号室から出ようとした。すると、その様子を見ていたルーカスがアレンへと声を掛ける。
「お前は入らないのか? 後悔すると思うぞ?」
「俺が入ったら迷惑になっちゃうから、遠慮しておくよ」
「……ふ、分かった。そうだな。実力差があり過ぎると面倒だからな」
ルーカスはアレンを見下げるように小さく鼻で笑って頷いた。
対して、アレンは特に気に留めることなく、笑みを浮かべながらA-2号室から出て行くのだった。
アレンが居なくなったA-2号室内ではルーカスとその取り巻き達が話していた。
「どうしたんだ? ルーカス、あんな弱そうなガキに声なんかかけて」
「ふ、何で……だろうな」
「どうした?」
「いや、確かにあんな弱そうなガキの代わりはいくらでもいるか。クカカ」
ガタ……。
ルーカスが高笑いしたところで、椅子が動く音が聞こえていた。
クリーム色の髪の女性が椅子から立ち上がる。そして、彼女もA-2号室から出ようと歩き出していた。
「なんだ? お前も俺のパーティーに入らないのか?」
「……」
「お前は女だが、それなりにできそうだ。もし、このパーティーが上に進んだら、幹部として待遇を確約するぞ?」
「ふふ、群れるのはあまり好きじゃないんだよね。悪いわね」
「な、なんだと」
「じゃあね」
クリーム色の髪の女性は笑みを浮かべて、小走りでA-2号室を出ていった。
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