第47話 雑談。

「ふぅ……」


 アレンが地下通路を通って青色の屋根の屋敷に帰った。そして、屋敷で食堂としている長机に椅子が並んでいる部屋に入っていく。


 アレンが部屋に入ると、それに気づいたホランド達が声を掛ける。


「ん、お帰りなさい」


「お帰りなさい」


「お帰り」


「お帰りッス」


「あぁ。ただいま。ふ、俺が居なくてもちゃんと修行はこなしたか?」


 アレンはリュックを置くと、ホランド達に視線を向ける。


 すると、アレンの問いかけに、ホランド達ではなく床でステーキを貪り食っていたノヴァが答える。


「わふ、ちゃんとやっておったぞ」


「ふ、買収とかされてないよな?」


「何を言うか。吾輩は気高きホワイトガブルウルフぞ!」


「ふ、そうか。分かった」


 アレンはノヴァの答えを聞いて、小さく笑った。


「さて、俺も……って俺の分はあるか?」


 アレンはホランド達が食べていたステーキを目にして、ノックスに視線を向けた。すると、食べていた食事を一旦置いてノックスが立ち上がる。


「もちろん、夕食分が残っているッスよ」


「そうか、貰おうかな」


「そうッスか。じゃ、準備するッスよ……ってその鳥は何ッスか?」


「あぁ、ガーホ鳥って鳥らしい。帰り道、見つけたからついでに捕まえてきた」


「へぇ、聞いたことないッスね」


「やっぱり、そうか? 俺も聞いたことがなかったから、今日出向いた森固有の鳥なのかも知れないな」


「そうなんッスね。で、この鳥は美味しいんッスか?」


「んー俺もまだ食べたことがないから分からんが、話を聞く限りかなり美味らしい」


「へぇ」


「まぁ少しだけ、焼いて食べてみるか? お腹いっぱいなら……」


「もちろん、食べるッス」


「あの俺ももらっていいですか?」


「私も食べたい」


「ふすん」


「少しと言わず、すべて焼いてしまえばいいであろ?」


 ノックスを始め、話を聞いていたホランド達が声を上げた。その様子を見て、アレンは苦笑した。


「ハ、別に良いが今食べている奴は残すなよ? じゃ、ノックスも手伝ってくれ」


「はいッス」


 アレンとノックスは食堂を出て、すぐ近くの調理場へと向かうのだった。






 ガーホ鳥は串に刺さった焼き鳥になって、食卓に並んだ。


 ホランド達はすでに夕食を食べて居た筈だが、すぐさま焼き鳥を手に取っていた。


「あ、これ美味しいですね。お酒が欲しくなる」


「私はしつこくない感じで好きだな」


「ふすん、美味しい」


「噛んでいると、ガーホ鳥の旨みが口の中に広がっていくッスね」


「プリっとした肉の食感があって面白いの。美味い。美味いぞ」


 ホランド達の反応を見ながら、アレンも焼き鳥に手を伸ばして食べ始める。


「うむ、塩で焼いただけだが、なかなか美味しいな」


「そういえば、アレンさん。人間の集落のような場所はあったんッスか?」


 アレンが焼き鳥を食べていると、ノックスがアレンへ問いかけた。すると、全員気になっていたのか、アレンへと視線が向く。


 アレンは食べていた焼き鳥と飲み込むと、リンベルクの街での出来事をホランド達の前で話し始めた。




「クリスト王国ですか……聞いたことないですね」


 一通り今日の出来事をアレンから聞くと、ホランドが呟いた。


「あぁ、俺も初めて聞いたよ。サンチェスト王国も認識してないんではないかと思う。かなり小国且つ、山と森に囲まれているから、おそらく調査が及ばないのかな?」


「なるほど。それにしても公用語がパルストール語でしたか……」


「あぁ」


「今から言葉の勉強ですか……」


 ホランドはもちろん、リン、ユリーナ、ノックスも一様に表情を曇らせていた。


 表情から察するに皆勉強は得意という訳では無いようである。


「そうだな。明日から魔法の特訓の後にパルストール語の勉強会も挟むかな、異国の街に行ってみたい奴は言葉の勉強を頑張るしかないな」


「はい……」


「……と言っても俺はうまく潜入できたが、お前らはどうするかな? さすがにお前らは俺と同じように農村の子供として潜入するのは難しい。だとすると、亡命者……クリスト王国が亡命者をどのように待遇で受け入れているのか調べてみんと。だから、当分は難しそうなんだけど」


「たぶん、俺達もだいぶ時間がかかるので、怪しまれないように調べてください」


「そうだな。あ、そうそう、追加と言えば……屋敷の周りの空間に農園を作ろうと思うんだが、誰か農作業が得意な奴はいるか?」


「それなら……リンが」


 ホランドがリンへと視線を向ける。それにつられてアレンもリンへと視線を向ける。


「そうね。けど、農作業がしたくなくて私は冒険者になったんだけどなぁ」


「ハハ、それはドンマイだな。じゃ、リンが中心で空地農園化計画を進めるとしようか。もう苗はいくつか買ってきているし」


「わかったわ」


 リンはしぶしぶながら頷き答えた。


「じゃあ、これで話すことは以上かな? いや、あと……冒険者ギルドで講習会と言うのを受けることになった。だから、その講習会がある十五日後にまた冒険者ギルドに出向くことになる」


「へぇ、アレンさん、冒険者やるんッスか?」


 アレンの言葉にノックスが興味深げに問いかけた。


「んー? どうだろう? 身分証が必要だったから、ギルドカードを作ったが……今のところは誰かとパーティーを組んだり、積極的に冒険者としてクエストをこなしたりして行こうとは思っていないかな?」


「えーそうなんッスか? アレンさんならすぐにでもS級の冒険者になれるッスよ。勿体ないッス」


「んー俺が今からS級の冒険者を目指してもなぁ」


 アレンはそう言って苦笑する。それから、アレン達はガーホ鳥の焼き鳥をつまみに雑談したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る