第31話 たどり着く。

 アレン達は地下通路に入って二日目の午後の事だった。


 体育館や修練場くらいの広い部屋にたどり着いたのだ。


 その広場にはアレン達が立っている入り口から五メートルほどまっすぐ橋が架かっていて、その先には真ん中あたりに円形の闘技場があった。


 円形の闘技場の周りは水で満たされていて、よく見ると魚が泳いでいる。


 闘技場の先にはまた橋架かっていて大きな扉が見てとれた。


 闘技場の中央には四メートルほどの鎧兵が一体鎮座していた。


 鎧兵は目元を隠すようにできた黒い仮面が被せられていて、鎧がゴツゴツと重厚感を感じる作りで……かなり丈夫な作りに見えた。


 武器として、脇には二メートルの赤い剣と一メートル五十センチの青い剣がそれぞれ一本づつ下がっていた。


 背負っていた荷物を下したアレンは鎧兵を目にして、表情を曇らせた。


「アレは……アブなそうだなぁ」


「え、あの鎧の像って動くんッスか?」


 ノックスが動揺したような様子で、アレンへと問いかける。


「この状況からみて動く可能性が高いかなぁ。そして、アレはかなり危険なものに感じる」


「……アレンさんがそこまで言うほどッスか」


「あぁ、さすがにお前達には任せられん」


「ノックス……アレは、私達には無理……絶対! すごい力……」


 ユリーナはそう言って表情を強張らせて震えていた。


「何か探知魔法で分かったのか?」


 アレンの問いかけに、ユリーナは震えながら頷いた。


「うん、あの鎧の胸の辺りに……すごくすごくマナが込められた魔晶石がある」


「そうか……ノヴァ」


 アレンはノヴァに視線を向けた。すると、ノヴァは表情を歪めた。


「わふん、面倒そうじゃな」


「そう言うな。魔法に制限がある状態でアレを相手にするのはなかなか辛いと思う」


「ほんと、お主が魔法をほぼ使えない状態なのが厄介じゃの」


「頼りにしてるぞ? ノヴァ?」


「ふ。仕方ないの。今日はあのステーキを所望するとしようかの」


「焼くだけのステーキでいい?」


「駄目じゃ。あのステーキ大盛りじゃ」


「仕方ないな」


 ナイフを持ったアレンとノヴァは歩き出して闘技場へと掛かっている橋を歩き出した。


「アレンさん、あの」


 歩き出したアレンに、ホランドは引き止めようとしたのか手を伸ばした。


 そして、声を掛けようとしたところで、アレンが小さく笑った。


「ふ、ホランド……いや、お前ら、俺の戦う姿をちゃんと見ていろよ。上手の戦いが見れる機会はなかなかないことだぞ?」


「は、はい。わかりました」




 アレンとノヴァは闘技場まで架かる橋を渡りきって、鎧兵の前までスタスタと歩いていった。


「近くでいると威圧感が増すな」


「お主が魔法をつかえていたら、面倒にはならんものを」


「仕方ないだろ? 俺が好き好んでこの指輪を着けた訳じゃないんだから」


「それはお主が油断したからじゃろう」


「それを言われると、なにも言い返せない」


 鎧兵の前にアレンとノヴァは立った。


「動くんだよな? 老朽化で動かないとかだと嬉しいんだけど」


「ふん、冗談言っておるんじゃ。保存の魔法が掛けられておることくらいお主は気付いているだろうに」


 アレンとノヴァが鎧兵の前で他愛のない会話していると、金属が軋むような音が聞こえてくる。


 鎧兵はゆっくりと動きだして、帯剣していた二本の剣を引き抜いて構えた。


 そして、鎧兵から声が響いた。


「証を持つ者か?」


「……証? 何だ? それは? ノヴァ、なんか証とか持ってる?」


 鎧兵から声を聞いてアレンは首を傾げて、ノヴァに問いかけた。


「いや、吾輩は裸一貫じゃ」


「あぁ、確かに……って今はそんなことを聞いてないな」


「持たぬ者は立ち去るがいい。立ち去らぬのであれば私がお主らを葬ることになる」


 再び鎧兵から声を聞こえてくる。


 その声を聞いてアレンは小さく笑い。そして、ナイフを構えた。


「ふ、優しいな。わざわざ確認してくれるなんて」


「じゃな、ぐうるるる」


 ノヴァは、アレンの言葉に同意すると、唸り声を上げて臨戦態勢に入った。


「私に挑むことを選んだ愚か者よ。この先に進みたいのならば相応しい力を示すがいい」


 鎧兵が最後にそう言うと、地鳴りのような足音をたててアレンとノヴァへと向かっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る