第30話 扉の外。
リンによって開けられた扉にホランドとノックスは二人して手をついた。そして、グッと扉に力を籠めて押した。
一分ほど、二人して扉を押していたのだが扉はピクリとも動かない。
続いて、押してダメなら引いてやろうと、扉についていた取っ手を握って引いたのだが、扉はピクリとも動かない。
「うぐぐぐ!」
「なんなんッスか? この扉異常に重いッス!」
「重いっ! ぐぐ!」
「そもそもこの扉本当に鍵開いてるんッスか?」
押しても引いてもびくともしない扉にホランドもノックスも声を上げた。
「え、ちゃんと開けたわよ?」
座って昼食を食べていたリンが気になったのかホランド、ノックスに問いかける。
「ぐぬぬぬぬ……ふは」
「む、無理ッス」
十分ほど、扉と奮闘していたホランドとノックスであったが、力尽きて座り込んでしまった。
腕を組んで二人の様子を見ていたアレンが小さく笑った。
「ふっ」
「魔法で吹き飛ばす?」
寝ているノヴァを抱きしめていたユリーナがアレンへ問いかける。すると、アレンは表情を曇らせる。
「物騒な……」
「ふすん、最近、マナが体の中にあり過ぎて、ちょっと使いたかった」
「そうか。ただ、ここでは控えてくれ……見せてやりたい魔法があるし」
アレンは右腕の袖を捲りあげながら、扉の前に行いった。そして、振り返ってホランド、ノックス、リンを見据えて口を開く。
「ホランド、ノックス、リン、お前らに覚えてもらいたい魔法の一つをここで見せる。これは魔法体術の基礎となる。よく見ておけ」
「は、はい!」
「はいッス!」
「はい!」
ホランドとノックス、リンの返事を聞いて、アレンが頷く。
アレンは左手の人差指を歯でコリッと噛んで、血を流す。
その血を利用して、捲り上げた右腕に先ず円、そして円の中に三角を一つ書いただけの図……この場合魔法陣を掻き込んだ。
「これが今からやる魔法の魔法陣だ。まだ下級の魔法……しかも、簡易版だから簡単だ。 覚えろ。普通はこの程度の魔法で魔法陣なんか使う奴は居ないが……最初の内は使った方が良いだろう」
ホランドとノックス、リンは食い入るように、アレンがしていることを見る。その様子をみてアレンは口元に笑みを浮かべた。
「魔法を使う時はな。最初、イメージするんだ。魔法をどのように行使するのかを……その際にイメージしやすいように魔法名を口にする奴もいるし。なんか変な踊りを踊る奴も変な詠唱を長々と口にする奴もいろいろいる。そこは自分がイメージし易い方法を探せ。次に体内に流れているマナを集めて、マナを自身がイメージした魔法へと変換する」
アレンは言葉通りにイメージして、体内を流れているマナを魔法陣に集める。
マナが集まった魔法陣は薄白く光り出して、魔法陣から白い霧が流れ出てスッーとアレンの体を覆う。
「これが肉体を強化する魔法の中で一番下級である【パワード】という魔法だ」
アレンがそう口にすると、扉を押していく。
すると、先ほどホランドとノックスが押しても引いてもビクともしなかった扉がゴゴゴゴ……っと岩の削れるような重い音を響かせてゆっくり開きだした。
「すごい……」
「すごいッス」
「すご」
アレンの使った魔法を見ていたホランドとノックス、リンは唖然とした様子で呟く。
そのホランドとノックス、リンの様子を目にしてアレンは小さく笑った。
「ふ、びっくりし過ぎだ……この程度の魔法は前衛職の凄腕なら無意識のうちに使っているものだぞ?」
「え。本当ですか? 無意識……それはアレンさんもですか?」
ホランドの問いかけに、アレンは頷き。
「あぁ、俺も使っていた。ただ、この右手の……バーゼルの指輪とかいう魔導具を着けられてからは使用していない」
「そうなんですね」
アレンは一回ホランドとノックスの横を通り抜けて、横に寝かせていたリンを担ぎ上げる。
そして、再び小さく笑ってホランドとノックスを見据えて口を開く。
「ふふ、前衛を担当することのあるホランドとノックス、リンには血の滲むような訓練の先に【パワード】の魔法を極めてもらいたいところだな」
「は、はい。頑張ります!」
「アレンさんの言う血の滲むような訓練と言うのが怖いッスけど」
「頑張る!」
ホランドとノックス、リンは表情を硬くしながら、元気よく返事した。
アレンの魔法によって扉が開けられると、まずアレンが開いた扉の先を警戒しながら覗きみた。
「近くに……人の気配はないな」
扉の先には巨大な岩がいくつも詰まれて岩山のようになっていた。そして、少し離れて森が広がっているのも見える。
扉の裏側は岩肌となっていて、岩山に隠れるようにカモフラージュされているようだった。
辺りを見回したアレンは釈然としないといった表情になった。
「……ここがゴールなのか?」
「えっと、ここは?」
「んー」
「ただの連絡路的なモノだった?」
「入口が堅牢な扉だったから期待してたんッスけど……」
アレンに続いて、ホランド、ユリーナ、リン、ノックスが順に扉から顔を出して周囲のようすを窺い落胆の表情を浮かべる。
そこで、ユリーナに抱っこされて寝ていたノヴァが大きく欠伸をして目覚める。
「ふぁーん」
「お、ようやく目を覚ましたか」
アレンはノヴァが起きたのに気付き声を掛けた。
「うむ?」
「何か臭いはあるか?」
「遠くで複数の人間の匂いがするの」
「人の匂い? 歩いてきた方角的にバルべス帝国までたどり着いた? いや、さすがに距離が足りない? では別の? アレ? 人の匂いがしたと言うことは魔物の領域ではない? 仮にここがゴールだとしても……んーん? 今まで歩いてきた地下通路内に人が使った形跡が見当たらなかった。そのことを考えると……ここに住んで居る人はこの地下通路の存在は知られていないと言うことになる。つまり、ここが地下通路のゴールではない? 地下通路が作られた目的が連絡路のようなものだとしたら使われていないのはおかしいよな? 地下通路にはまだまだ分岐があったのを考えるにまだ何かある?」
アレンが視線を下げて顎に手を当ててブツブツと呟きながら長考していた。そして、一分ほどしてアレンはホランド達に視線を向ける。
「もう少し地下通路の探索を続けよう。この地下通路がリンの言ったとおり連絡路だったとしても、地下通路内には分岐がいくつかあった。それに誰かが使用したと言う痕跡がない以上、この扉が単に出入り口の一つで正解の通路を辿っていったらお宝に出くわす可能性だって十分にあると思う」
「確かにそうですね」
ホランドは納得したように頷いた。
「あ……」
何か閃いたようにノックスは手を叩く。
アレンはノックスへと視線を向けて問いかけた。
「ん? どうした?」
「えっと、この場合は、地下通路の先にあるかも知れないお宝を横取りされないためにも、地下通路内に戻って扉を閉めて元の状態にした方が良いッスか?」
「ふ……そうだな。あると良いが……とりあえず戻ろう」
アレン達は地下通路内に戻り、扉を急ぎ閉める。そして、再び地下通路の探索を始めるのだった。
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