第11話 アレン、子連れになる。
ホランドは何か決意したような表情となって、口を開く。
「お一人でユーステルの森へ……?」
「そうだな」
「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ、あの……俺も団長様に付いて行ってもかまわないでしょうか?」
「あん? どうした急に?」
アレンは困惑した表情を浮かべた。ホランドはバッと頭を深々と下げる。
「俺……金のために団長様を襲った大馬鹿者で信用できないかも知れません。……しかし……しかし……どうか……俺も昔から火龍魔法兵団に憧れていて……できたら、団長様の下で俺も困っている人を助けられるように鍛えていただけないでしょうか? 団長様に俺なんかを鍛える意味はないかも知れません。しかしどうか……お願いします!」
――俺に剣の使い方を教えて欲しい。
必死に懇願してくるホランドを目にして、アレンの頭の中には昔のことがブワッとフラッシュバックした。
俺には師匠に剣を習い……習練の日々があった。
そういえば、俺は火龍魔法兵団で団長を務めていたが、忙しくて兵団員一人一人の修練に付き合うことがほとんど出来ていなかったと思う。
今回の国外追放は師匠が俺に剣を教えたように、俺にもそろそろ後進を育てるという役目が回ってきたと言うことなのだろうか?
俺としてはホランドを鍛えるのは別に構わない……これから暇な時間がいくらでもあるのだから。
ただ、ホランドは本当にいいのか?
ホランドが俺に鍛えられると言うことは、今日の食事すらどうなるかわからない……お先真っ暗な俺と同じの生活を送ることになる。さすがにその場の勢いで決めていいことではないだろう?
いや、そもそもホランドは仲間が見えなくなっている。
アレンは色々な思いが頭の中に過った後に、ホランドの肩に手を乗せた。
「顔を上げろ……ホランド。お前は冒険者パーティーのリーダーなんだろ? つまり、他のメンバーの人生を背負って立つ立場の人間で、そんな勝手が許されないだろ?」
アレンがホランドの後ろに居たノックスとリン、ユリーナに視線を送る。すると、ノックスとリン、ユリーナも順に口を開いた。
「ついて行っていいッスか? 俺ももっと強くなりたいッス」
「私もお願いします」
「ふすん、私も」
ノックスとリン、ユリーナもホランドと同意見だったようで、彼らはアレンへと頭を下げた……。
「え……いや、えっと」
「お願いします。大馬鹿者の俺を……俺達を……どうか連れて行ってください。必ず何か……役にも立ちますので」
最後にホランドは再び深く頭を下げられて、返す言葉に困ったアレンは頭を掻いて考える。
まさか、四人全員が頭を下げてくるとは……。
……ホランド達はまだまだ若く将来有望な人材である。
それを、この先どうなるか分からない俺に付き添わせて本当にいいのだろうか?
生活の保障は今のところできないし。
俺にはもう親類は居ないけど。
それでも、兵団の連中はもちろん、たまに会って酒を酌み交わす友人バジルやスーザン、ベアトリス達ともう会えないと思うと寂しいに……。
こいつ等にはそういう人は居ないのか?
アレンはしばらくの沈黙の後に口を開き問いかける。
「……生活の保障なんてものはない。それに今後王国にも帰れるのか分からんぞ? 親や友人が心配しないか?」
「はい。構いません。親は団長様と俺が一緒に居ることを誇りに思ってくれるでしょう」
「問題はないッス。俺は親が居ません。だけど、俺の親も同じく誇りに思ってくれる。友人に関しては逆に羨ましがられるッス」
「私も引き止められるどころか喜ばれます」
「ふすん」
ホランド、ノックス、リン、ユリーナがアレンに迫る。
四人の真剣なまなざしを受けたアレンは手を前に出して、観念したように息を吐いた。
「もしかしたら……俺の修練は厳しいかも知れんぞ? それでもいいか?」
「「「「はい」」」」
「……分かった」
「「「「っ! ありがとうございます!」」」」
アレンが了承するとホランド、ノックス、リン、ユリーナの四人から歓声が上がった。
喜びの声を上げるホランド達に若干引き気味のローリエが呟く。
「な、なんなのよ?」
「まぁ、火龍魔法兵団は国民に人気があった……。しかし、俺にそこまで人が付いてくるとは思わなかった」
「アンタは……ほんとに敵国に防衛情報を漏えいしてないの?」
「俺はそれをした覚えはないけど。この件は軍の上層部より……もっと上の上役が絡んでいる可能性がある。お前も深くは関わらない方が良い。……いや、それはもう無理か」
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