第10話 近い将来。



「なんで……貴方ほどのお方が国外に追放されることに?」


「あぁ。それは……俺も知らんな」


 ホランドの問いかけにアレンは答えることが出来なく。俯いているローリエへと視線が向かう。


 すると、今度はローリエが怒りを露わにして地面をバンと叩く。


「アンタが王国の防衛情報を他国に漏らしているからでしょ!」


「防衛情報の漏えい?」


 心当たりがないのかアレンはきょとんとした表情で首を傾げた。そのアレンの様子を目にしたローリエは不満げな様子になる。


「とぼけても無駄よ。防衛情報を他国に漏らす見返りに大金を得ていたんでしょ?」


「……そうか。それが俺の起訴内容だとすると、相当に上の連中が絡んでいるな。まぁ、王族直属の近衛騎士が王命と言って拘束しに来た時点でわかっていたことかぁ……うわーこれ以上、面倒事に関わりたくないわー」


「ど、どういうことよ」


「いや、なんでもない。それで話を戻すが……このペンダントを渡したら俺を死んだことにできるか?」


「……たぶんできる」


「じゃ……あとは俺がしばらく姿を消していれば……すべて解決するんだな」


 アレンは何も躊躇することなく首にかけてあったペンダントを外して、ローリエに手渡そうとした。


 そのやり取りを見ていたホランドは居ても立っても居られないと言った様子で、アレンがペンダントを渡そうとした手を掴んで止めた。


「ま、ま、ま、待って。いや、待ってください。それは……」


「ん? どうした? お前達、冒険者はローリエから成功報酬を貰えるから良いだろ?」


「火龍魔法兵団が……いや貴方様が居なくては……サンチェスト王国は帝国に近い将来滅ぼされてしまう」


「それは……俺には未来のことは分からん。それに、俺が居なくても俺が育てた火龍魔法兵団は残るから」


「しかし、貴方様の火龍魔法兵団ではなくなると」


「今の火龍魔法兵団を指揮するなら……相当な実力が必要だな。まぁ、副長のホーテを団長に繰り上げたら何とかなるだろう。それに軍とはそういうものだぞ? 定期的に長を変えないと軍は成長していかん。それに最近は軍上層部に嫌われる俺の存在が火龍魔法兵団の足枷となっていると感じていたしな」


「そうですか」


 ホランドはアレンの話を聞いて頷いたが、表情は暗いままであった。


 そのホランドの様子を目にして、ローリエが首を傾げて口を挟んでくる。


「何をそこまで深刻になることがあるの? こいつは敵に防衛情報を渡していたのよ? これからは、今まで以上に王国は強固な国へとなるわ」


 ホランドはどこか得意げに口にしたローリエの言葉に気に障ることでもあったのか、ムッとした表情でローリエへと視線を向ける。


「……ローリエさん、貴女が言っていた情報は真実ですか?」


「え? あ、あたりまえじゃない」


「ちょっと考えればわかると思うのですが……なぜ最前線で戦っている火龍魔法兵団の団長様が敵に防衛情報を渡す必要がどこにあるのですか? 渡さない方が戦う機会減っていいではないですか」


「そ、それは……そうよ。情報を売った金が目的よ!」


「お金? ローリエさんはどこの街の出身ですか?」


 ホランドは表情をゆがめてローリエに問いかけた。対して、ローリエは質問の意味が分からないと言った様子である。


「な、何よ。王都ノースベルクだけど、それが何よ」


「そうですか……火龍魔法兵団は国境付近の最前線が主戦場ですから、王都まで噂は広がらないんですかね。あぁ、それにローリエさんは貴族様ですから知らないんでしょうか……」


「だから、何なのよ!」


「……では言わせてもらいますが、火龍魔法兵団は救った村や街から礼金を一切受け取らないことで有名なんです。その火龍魔法兵団の団長様が一時の金で動くとは思えません」


「そ、それこそ、噂に尾ひれが付いたんじゃ」


「確かに噂には尾ひれがつくものですが……村や街から礼金を貰っているかどうかという噂の真偽などはすぐにわかりますよ。なんせ、国境付近の街や村のほとんどが火龍魔法兵団に救われています。俺は……いや、国民のほとんどが情報漏えいして金を得ていたなどと言う嘘を信じないでしょう」


 ホランドは断言した。


 それに続くようにホランドの周りにいたノックスとリン、ユリーナもうんうんと頷いて見せる。


「……」


 ホランドの言葉を聞いて、ローリエは絶句した。対して、アレンは照れくさそうにしながら、頬を掻いている。


「おいおい。俺をそんな褒めても今は何もあげるもんなんてないからな? あ……それにな、礼金はもらったことはないが、普通に食糧と寝床はもらったりするから……その噂は微妙なんだな」


「団長様は……本当に王国に戻ることはないんですか?」


「いや、今さっき追い出されたばかりだからな。これから……最初はベラールド王国に向かうつもりだったが、俺を死んだことにするために身を隠す必要があるのかな? ……そうだな。一人ではちょっと危ないとも思ったがユーステルの森にでも籠るかな?」


 アレンはユーステルの森へと視線を向けた。


 ホランドもアレンの視線を追うようにユーステルの森に視線を向ける。

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