第72話 ラット撃破
屋敷内部でも入り組んだ部屋。
狭い室内には本棚を中心に様々な物が乱雑に置かれていた。
床は散らばった小物やら何やらで踏み場が制限され、大人の身長程まで高く積まれた本やら資料が今にも崩れそう。
ここは本来書庫なのだが、屋敷の持ち主が本に興味がないため物置として使われている。
結果、このように入り組んだものになってしまった。
「ククク…バカが。自分から不利な場所に逃げやがったぜ」
嘲笑いながら、ラットは百貴を探す。
狭く入り組んだ場はネズミにとって絶好のテリトリー。
隠れたつもりが、逆にこちらの有利な場所に行ってくれるなてご苦労な事だ。
先に見つけ出して、一気に殺してやる!
「いけ、鼠共!」
使役している鼠の屍食鬼に指示を出す。
ラットの指示通り、ブワーと大量の鼠たちが部屋全体に行き渡って探し出す。
人海戦術ならぬ鼠海戦術。
壁や柱を伝って、乱雑に置かれた物を通り抜ける。
そのままジワジワと追い詰めようとした瞬間、大きな音が部屋の端から聞こえた。。
「うおッ!? な…なんだ!?」
一瞬音に驚くも、ラットはすぐさま冷静になって探索に戻る。
この散らかり具合だ。そんな場所で鼠が一斉に動けばバランスの悪い積み物が崩れても仕方ないだろう。
崩れ落ちた物に潰されて鼠がいくつか死んだが問題ない。数なんてすぐに用意できる………。
ガシャァァン!と、また音が聞こえた。
先程よりも派手な音を立てて、周囲の物が崩れ落ちた
本棚が次々とドミノ倒しのように倒れ、大量の本がドサドサッと音を立てて落下し、ソレに巻き込まれて次々と積み物が倒壊。それらを足場にしていた鼠たちは次々と下敷きになった。
ガシャン!ガシャンガシャァァン!
またまた音を立てて物が崩れる。
今度は五か所同時に、本棚が浮き上がった。
空にした状態でも大の大人が三人ぐらいでやっと持ち上がれる様な重さの本棚が、錐もみ回転しながら、周囲の物を薙ぎ払う。ソレに巻き込まれて一気に鼠たちが潰されていった。
「あ、あの鬼……!ソレが狙いか!」
やっと、ラットは百貴の狙いを理解した。
百貴はこの入り組んだ地形を利用して鼠共を潰すつもりなのだ。
倒れやすいものがこれだけ乱雑に置かれているのなら倒壊させるのは容易。後は鬼の身体能力でテキトーに暴れていれば勝手に潰れてくれる。
しかし、百貴の作戦にはどうしても無理がある。
「探せ!これだけ暴れていれば目立つはずだ!」
ラットは鼠たちに指令を出しながら、自分も探索に出る。
いくら崩しやすいとは言っても、派手に暴れたらどうしても目立つ。ならすぐに発見できる筈だ……。
「ックソ!どこだ!? どこにいやがる!?」
発見できない。
暴れた痕跡は見つかるが、既に別の場で暴れている。
こうしている間にも次々と鼠たちが潰されていく。
「まだか!?まだ見つからないのか!?
見えない。
確かにいる筈なのに、音しか聞こえない
こうしている間に駒の数だけが減っていく。
「なんでだ!?なんで見つからねえんだ!?」
いない!
どれだけ必死に探しても、姿が一向に見えない!
こうしている間にも鼠たちの数が尽きていく!
「なんでだ……何でいない!?」
おかしい! そこにいる筈なのだ。
暴れた痕跡はある。その音も聞こえる。妖気も確かに感じる。なのに何故見つからない!?
これだけの鼠が探し回っているのだぞ? 狭い場所のプロである鼠が探しているのだぞ? なのに何故ガキ一人を満足に探せない!?
あれだけの妖力を持つ鬼だぞ?そんな鬼が派手に暴れまくっているのだぞ?そこに確かにいる筈だぞ?なのに何故見つからない!?
「ッ!?」
何処かからか、本棚が投げられた。
ソレを咄嗟に避けるも、幾つも投げられた本棚がラットを囲うかのように落下。
ラットは檻やリングに囚われたかのように駒の鼠共から隔離された。
「さてと、これで一騎打ちだ」
やっと出て来た百貴は、本棚の上からラットを見下した。
気が付けば、鼠たちの声も気配も消えていた。
リングのように本棚に囲まれた場で妖怪と半妖は向かい合う。
「お前の兵隊はもう使えない。これでお前は丸裸になったお山の大将だ」
「……テメエ、隠れていやがったな?」
「格上とやりあったり、コソコソ隠れる敵と殺し合う機会は豊富だからね。こういった真似は得意なんだよ」
「来いよ鼠ちゃん。甚振ってやるニャー」
「~~~~~~~~!!」
わざとらしく、鬼化させた手で招き猫のような手招きをする百貴。
その行為にブチ切れたのか、ラットは歯軋りしながら飛び掛かった。
彼は、見下されるのが嫌いだった。
特に、百貴のような高貴な生まれの子供妖怪が。
「ざけんじゃねえぞ! テメエみてえなガキ、俺一人でも潰せる!」
大きな口を拡げ、百貴をかみ砕かんと迫る。
巨大な前歯が百貴に刺さろうとした瞬間、毛むくじゃらの拳がラットの目一杯に広がった。
「ぶへぇ!!?」
一発目。
ストレートパンチがラットの顔面に命中。
突進の威力と拳の威力が衝突した結果、ビキビキと前歯に大きなヒビが入る。
二発目。
左アッパーが命中してラットの巨体を放り投げる。
顎に凄まじい衝撃を加えられた結果、自身の前歯をぶつけ合う形となり、脆くなった歯が粉々に砕ける。
三発目。
封魔鬼術を込めた両手突きが胴体に命中。
アッパーで浮き上がった歪な鼠の肉体を更に吹っ飛ばし、囲っていた本棚を突破して、部屋の隅の壁に叩きつけた。
「ぐ、あ……ああ……!!」
ラットの身体に封印の文字が二つ刻まれた。
根を伸ばすかのように赤い光の亀裂が文字から走り、締め付けるかのようにラットの妖気を閉じていく。
ラットは苦悶の声をあげながら立ち上がろうとするも、力が入らない。
既に封印は粗方完了してる。なら次は決まっている。トドメだ。
「ぐ…あああああああああああ!!?」
爆発四散。
光の根が心臓部に到達すると同時、眩い光を内部から発しながら、ラットは爆発した。
「よし、じゃあ次行く……!?」
部屋を出るため、ラットを殴り飛ばして出来た本棚(リング)の穴を通ろうとするが、一時中断。
背後に高く跳ぶことでリングから出る。
空中で膝を抱えて一回転。スタリと猫のように足音を殺して着地した。
それとほぼ同時、リング目掛けて何かが突っ込んで来た。
暴走車でも突っ込んで来たかのような衝突音と勢い。
本棚をベキベキと粉砕したソレは、身体についた木片や木屑を振り払いながら百貴族の方に振り向く。
「あれ?失敗しちゃった?」
山羊の頭と後ろ脚。それ以外は人間の肉体。
歪な姿へと変異した吸血鬼は、血走った眼で百貴を睨んだ。
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