第67話 お粗末な侵入


 人里離れた山奥にある屋敷。

 荒山に建てられたその館は、辺鄙な場所だというのに立派だった。

 何故こんな不便な場所に何故屋敷を構えたのか。こんな屋敷を構えて目立たないのか。

 そんな疑問はたった一つの返答で終わる。

 妖怪の住処だからである。


 妖怪の中には異界と呼ばれる別次元の空間を創り出せる存在がいる。

 無論、そんなことが出来るのは一部の妖怪のみで、大半の異界持ちは強い妖怪に従うことで領地として貸してもらっている。

 簡単に言えば、王に当たる妖怪から土地を与えられ、領主としてその土地を管理するといったところだろうか。

 そして領主はその土地限定で、主の怒りに触れない程度に好き勝手出来る。


「へ、へへへ……。や、やっと手に入った」


 屋敷の一室で、領主はニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべる一体の吸血鬼。

 彼がこの屋敷の長であり、領主を務める貴族吸血鬼、ノムー・ダークボードである。

 領地は小さく貴族の中でも低い準男爵だが、それでも貴族は貴族。領内では相応の権利を持つ。

 彼の歪んだ性癖を満足させる程度の力は持っているのだ。

 しかし、貴族が王になれるのは自身の領地内であることと、己より地位が上の存在の反感を買わない枠内部。

 だから彼は好き勝手するための手段の一つとして、何時切り捨ててもいいはぐれ吸血鬼を雇っているのだ。

 そして今日、そいつらを使ってお目当ての“物”を手に入れた……。



「それじゃあ、後はお楽しみということで」

「うむ。これで君たちの仕事は終わりじゃ」

「へい、じゃあ姉妹セットをお楽しみください。私たちはこれで」

「いや、どうせなら楽しもう。儂は見られる方が興奮するんじゃ」


 貴族悪魔の悪趣味な回答に対して、はぐれ吸血鬼は嫌な顔を……。


「え!? マジっすか!?俺らも混ざっていいの!?」

「いや~、俺も日本の可愛い妖怪イジメたかったんだよな~」

「俺も俺も! しかも雪女の双子とか超レア!」


 嫌な顔をするどころか、むしろ逆に喜んでいた。

 類は友を呼ぶといったところか。

 こんな貴族吸血鬼だからこそ、こんなゲスはぐれ吸血鬼と妙な雇用関係を結べたのだろう。




 吸血鬼の一体が手を出そうとした途端……。



「ぎゃあああああああああああああ!!!?」


 簀巻きになった子供がロープを引きちぎり、吸血鬼へと飛び掛かった。

 子供は刃物のようなもので吸血鬼の首を切断。

 頸動脈を一瞬で掻っ切られ、喉から大量の血を吹き出しながら、その吸血鬼は塵と化した。


「な、なんだこのガキ……ぐあ!?」


 もう一人の吸血鬼も瞬く間に無力化。

 背後に回り込んで首に飛び掛かり、首筋に一閃。

 ザシュッと、先ほどの吸血鬼と同じ末路を辿ることになった。


「な、なんじゃお前は!?」


 ノム―ははぐれの背に隠れながら子供を睨みつける。

 なんだ、どういうことだ。

 はぐれには手筈通りに“あ奴”から取り寄せた東方の封印道具で力を弱めた筈なのに……!


「ふ、封印は!?封印はどうなっておる!?」

「封印? そんなモン“半妖”には効かないよ。妖怪の力を抑えたら簡単に外れる」


 女物の服を脱ぎ捨て、白いカツラを放り投げながら、子供は―――百貴は不敵に笑った。

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