第66話 なんで攫われるんだよ!?
「う。う~ん……」
目が覚めた俺は、とりあえず背伸びとあくびをした。
あ~良く寝た。
あれだけ戦った上に必殺技も使ったから、反動が一気に来たよ。
まあ、最近は食って寝たら大概回復するけど。
それじゃあ、雪那たちの顔でも見に行きますか。
「………ん?」
布団から出ると同時、俺は異常に気が付いた。
付き人が誰一人いない。
ここまで大きな事件で当主候補の俺が倒れたら、普通は医者や従者が布団を囲むように待機する筈。なのに何故誰もいない。
俺の家では屋敷の皆が全員集まっているのかと思う程に囲まれ、目が覚めると滅茶苦茶喜んだり涙流すほどなんだけど……。
聞き耳を立てて周囲を探ると、鬼の力によって強化された聴覚は、とんでもない単語を拾い上げた。
「………つららが攫われた?」
ソレを聞いた瞬間、俺は部屋を飛び出し、聞こえた方に向かう。
途中、廊下で何人かとぶつかったが今はそんなの気にしちゃいられない。
一刻も早くどういうことか問い詰めなくては―――。
「うわッ!?」
「……あ」
俺に当たった子供が倒れてしまった。
流石にコレは不味い。俺は立ち止まって倒れた子に手を差し伸べる。
「ごめん、けがはない?」
「うん、ちょっと転んだだけだから」
俺の手を掴みながら、その子は立ち上がる。
同じ年頃の男の子。
身長も今の俺と同じくらいで、体重からして見た目以上に筋肉がありそうだ。
けど妖気が一切感じられない。
おそらくこの子、人間だ。
別に、人間が妖怪の村に入っちゃいけないルールもないし、妖怪と仲のいい人間もいるからおかしくはないんだけど……。
………って、そんなことを考えている場合じゃない。
「ごめんね、急いでたんだ」
「そうか。じゃあ僕に気を掛けるよりも早くった方がいい。この通りなんでもないから」
「うん、ありがとう」
僕はその子に背を向けて目的の部屋へと入った。
丁度目の前の戸だ、
俺は乱暴にバンッと開けながら中に入る。
喧噪に包まれていた部屋がシンと静まり、俺に大人たちの注目が集まる。
けどそんなの気にしちゃいられない。俺はすぐ質問した。
「……つららが攫われたってどういうことだ?」
「ぼ、坊ちゃまソレは」
「一体何をしていた?村長の娘が立て続けに二人攫われたんだぞ! 一体どういうことだ!?」
俺が怒鳴るも答える者は誰もいない。
全員俯いて申し訳なさそうな、悪く言えば叱られている子供のような態度だ。
いい大人がこんなにもいるのに、何だこの有り様は!?
「……クソッ!」
「ぼ、坊ちゃま!? 何処に行かれるのです!?」
「決まっている、取り返しに行くんだよ!」
「な、なりません! これ以上外部の妖怪に付き合う義理は我らにはありません!」
「あ?」
俺は足を止めて振り返った。
「柊の里は朱天と全く関係のない勢力。これ以上無償で労力を割くわけには参りません」
「つまりこれ以上恩を売る義理はないから見捨てると?」
「……仰り方に悪意があるようですが、おおむねその通りです」
なるほど。これ以上自分たちを動かしたいなら、名誉とかそんな曖昧な物ではなく、実利が欲しいと。
当然の要求と言えばそうだな。
彼らは消火活動や後処理などで十分働いてもらった。これ以上俺のワガママで迷惑をかけるのも酷か。
しかし、ソレなら気になる点が一つ。
「けど、俺の親父には絶対服従って聞いたけど?」
「ソレは当主様であるからです。当主候補の方々にはその権限がございません」
「なるほどね。分かった、じゃあ諦める」
俺はそくさくと出て行った。
そういえば戸、開けっ放しだったな。あれだけ大声で話せば誰かに聞かれる……。
「どういう……ことや!?」
Oh……。見つかったぜ……。
「どういうこっちゃって聞いとるんや! 諦める……? お前が? まさか、ホンマに見捨てるっちゅうんか!?」
レイは俺の胸倉を掴んで、顔を寄せてきた。
目に力が入り、歯をむき出しにしている。
誰が見ても怒ってるのは一目瞭然だ。
対する俺は無抵抗。
特に反応するでもなく、無言を貫く。
「……クソ! ふざけんなよ! 俺は…俺はお前を……!」
「やめてレイくん!」
俺の態度が気に障ったのか、レイは拳を振り上げ、殴ろうとした瞬間、雪那によって止められた。
「いいのよ、もう……。モモくんは、もう十分……十分助けてくれたから……」
「雪那ちゃん……」
悲しそうに顔を伏せる二人を傍目に、俺はっさっさと歩く。
悪いね、本当は早くワケを話したいんだけど、そういうわけにもいかないから。
だけど安心して二人とも……。
「(ちゃんと策は用意してある……)」
俺は次の準備をするため、部屋に戻った。
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