転生したら異世界博物館職員になっていたのだが殿下がいなくて焦っている(ロスお遊び)

 気がついたら、これまで経験のないほどひどい頭痛を覚えた。どこかにぶつけた覚えもない。痛みに耐えつつ瞼を開けると、眩い光と共に目に入ったのは見たこともない発光体である。シレアの王子側近として様々な地に赴いている自分でも生まれてこの方、出会ったことのない珍味な明かりだ。

 ——なんだ、あれ。

 天井から吊るされた玉の光は明らかに燭台の蝋燭とは違う。おまけにそもそも天井が城と比べて随分低い。

 ——どこだここ。

 体を横に転がし起き上がってみれば、シレアのものとは全く異質な調度品が置かれた部屋だった。調度品と言っていいのかも分からない。あるものは点滅しながら波形を描いているし、あるものは「ピーピー」と規則的に音を鳴らしている。ついでに自分が寝ていた寝台にさえ蔦のような管が這っている。そして……

「なんで時計が」

 壁に時計があるのである。

 シレアには時計といえば城下中央の時計しかなく、隣国テハイザにおいてもシレアと同じ形の盤状の時計はない。ところがこの部屋の一方の壁には、随分と簡素ではあれ、シレアの時計台と同種の文字盤を持つ時計があるのだ。しかも針が規則的に動いている。

 どう頑張って考えても、ここはシレアではない。

 その事実に気がついた時、ロスは瞬時に腰に手をやる。手が虚しく空を掴んだのにぎょっとし、すぐさま寝台の布団をひっぺがす。しかし、ないのだ。愛剣が。

 奪ったのはまさか賊か。

「殿……っ」

 寝台から飛び降りたその時、部屋の扉がガチャリと音を立てる。

「Ah, Sie wach’n auf. Glücklich! Nein. Doch müssen Sie noch in Ruhe. (ああ気が付きましたか。駄目ですよ、まだ安静になさっていないと)」

 入ってきた白い装束の男性は、首にかけた何かよくわからないものをかちゃかちゃ言わせながらロスに近づくと、手慣れた様子で寝台横でピーピー鳴っている機械を動かす。

「Atmen Sie langsam, gut, noch einmal(はい、息吸ってー。いいですよ、もう一回)」

 男性の言葉は聞いたこともない言語なのだが何故だかわかる。動転しつつもいう通りにしてしまうこれはなんだ。

「Ok. Sie können bald nach Hause. Sehen wir noch einen Tag, also bis dann(よろしい。すぐに退院できます。あともう一日様子を見ましょう)」

 ロスの手につけられていた管を外し、男性はにこにこ笑いながら、もうここからは解放されそうですね、よかったよかったと言いながら出て行ってしまった。

 ——解放って、俺、捕虜かなんかになってんのか?

 しかし対応も寝台の感じも虜囚に与えられる類のものではなさそうなのだが。

 ——ていうか殿下どこだ。


 続く


 🌟お遊びです。大使が書くんですねって言うから!笑

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