第26話
『
「ん……」
せっかく気分よく寝てたってのに、例の無機質な声で目が覚めた。
「セイラさん!」
すぐに誰かが駆け寄ってきたと思ったら、マーガレットだった。
「あれ? マーガレット。いつの間にこっちに来たんだ」
「違いますよ、セイラさん。あなたが帰って来たんです」
「は?」
よくよく見て見ると、確かにここ一ヶ月ほどで見慣れた大聖堂の自室である。
モールデン砦からここまで一週間の道のりだ。
つまり……一週間も寝こけてたってことか!?
「心配したんですよ? すぐにエルムス様をお呼びしますね」
返事も聞かずにマーガレットが飛び出していく。
「はぁー……寝過ぎて体がいてぇ……。腹も減った」
よたよたとした足取りで、着替えを仕舞ったタンスに近づいていく。
そして、ふと鏡の前で足を止めた。
一週間以上も食ってないんだ。
もしかしたらやつれてるかもしれない、と思って。
「は?」
そこに映っていたのは、見知らぬ女だった。
いや、目鼻立ちは見知った顔だが、髪の色と瞳の色が違っている。
「なんだ、これ……!?」
まるで小麦畑を思わせる金の髪と、透き通る空のような青い瞳。
どちらも、自分が持ち合わせていないないものだ。
「どうなってんのさ……?」
「セイラ!」
鏡の前で百面相していると、マーガレットとエルムスが部屋に入ってきた。
「おう、エルムス……うわっぷ」
「無事でよかった。もう目覚めないかと」
急に抱きすくめられ、大混乱するアタシの耳元で優しい声が聞こえた。
「問題ないよ。腹は減ったけどね」
「すぐに準備しますね」
「ああ、ガッツリたのむよ」
エルムスに抱き着かれたまま、マーガレットに頼む。
「ほら、エルムス。いつまでそうやってるんだい? あんまり長いと金とるよ」
「ああ、よかった。セイラのままだ」
「アタシはアタシさ」
抱擁を解いたエルムスがふわりと笑う。
その笑顔に、アタシもうっかりと笑い返してしまった。
それに赤面されるとは思わなかったが。
「あの後、どうなったんだい?」
「ええと、順を追って説明しますね」
モールデン砦の戦いで魔物を殲滅したアタシは、意識を失って倒れた。ここまではなんとなく覚えている。
事の顛末は、すぐに大聖堂と王都に送られ、それであの謎の力を発揮したアタシは、聖女だということになったらしい。
大聖堂に戻って来たのは数日前で、神殿騎士の一個大隊が護衛に着いたとエルムスは説明した。
「姿は一週間ほどで徐々に変わっていきました。古に語られる聖女の姿にそっくりなんですよ、今のあなた」
一週間って。
エルムスの奴、どれだけアタシのそばに居たんだ?
「魔王軍はどうなった?」
「今のところ動きはないそうです。聖女が現れたので、魔王そのものが警戒しているのかもしれません」
「そうかい……」
とりあえず、モールデン砦の連中は無事ってわけか。
それを聞いて、アタシは胸をなでおろす。
これで全滅してたら目も当てられないからね……。
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