第17話

「ようこそ、セイラ様」

「ゴキゲンヨウ、モールデン伯爵サマ」


 いよいよ怪しくなってきた笑顔と言葉で、出迎えてくれた大柄の騎士にカーテシーをする。

 付け焼刃の行儀作法でも、そこそこ効果があったらしい。

 この戦場の責任者、モールデン伯爵が笑顔を見せる。


「このようなところにお越しいただき、ありがとうございます。きっと、騎士たちも喜ぶことでしょう」

「神ノ御意思デアレバ」


 そろそろ反吐が出そうだ。

 見かねたエルムスが話に割り込む。


「申し訳ありません、セイラは疲れているようです。休ませても?」

「もちろんです。アルフィンドール殿」


 司祭というからには、やはりいい所のボンボンなのか。

 アルフィンドールなんて家名は聞いたことがないけど。


 部屋に案内され、荷物を置くと確かに疲れがどっと出た。

 ああ、この演技をあと三日もするのか?

 面倒くせぇ……。


「ん……?」


 砦から外を見やると、砦の外には大型のテントが並び、せわしなく動く者たちがいる。

 武装しているし、傭兵だろうか。


 一気に気分が重くなった。

 傭兵の経験は自分にもある。

 騎士の下請けの傭兵団のさらに下請け……日雇いの傭兵だ。


 あの時は、戦場ではなく、魔物を探す人海戦術の為の要員だったが、待遇はひどいものだった。

 騎士って連中は、傭兵を使い捨ての駒か何かだと思ってるんじゃないだろうか。


 ここにしたってそうだ。

 砦の外郭の中に傭兵のテントを立てさせればいいのに、傭兵たちは外に追いやられている。

 これじゃ、奇襲があれば最初に犠牲になるのは傭兵たちではないか。

 戦線を維持するのに傭兵が必要だと言いながら、仲間と見てはいない。

 金で補充が利く、使い捨ての兵隊。スラムでやばい仕事を裏で回されるガキと変わりゃしない。


「どうしました? セイラ」

「気に入らねぇ」


 不機嫌を隠さずに、アタシは立ち上がる。


「どこに行くんです?」

「今日の予定はメシだけだろ?」

「そうですね。モールデン伯爵と各隊隊長との会食ですが……」

「それ、傭兵の連中も来るのかい?」


 アタシの質問の意図を汲んだらしいエルムスが、首を横に振る。


「なら、キャンセルしといておくれ。アタシは、傭兵たちのところに挨拶に行ってくる」

「セイラ……」

「なんだ? 教会様は国益のために戦う騎士は慰問しても、金のために死んだ傭兵は慰問すんなってか?」


 エルムスが、小さく首を振ってアタシに微笑む。


「いいえ。あなたらしいと思います」

「エルムスの騎士の相手を頼むよ。難癖付けられちゃ、たまんないからね」

「……わかりました。お気をつけて」


 耳のそばを小さく撫でられ、体がぎくりと固まる。

 ここ最近、スキンシップが多い気がするぞ、聖職者。


「適当に戻る。先に寝てていいからね」

「戻ってくるまで待ってますので。あまり遅いと迎えに行きますよ?」

「ガキじゃあるまいし、勘弁しろ」


 エルムスに軽く笑って、アタシは扉を出た。

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