聖女セイラはビームで全てを焼き尽くす。~神よ、これが『愛』だ~
右薙 光介@ラノベ作家
第1話
「……神託を告げる」
大聖堂の静謐に、教皇の声が響く。
「これより五年後、魔王が復活し……世界は再び苦難の道に立たされるであろう」
その言葉に、息を飲む教会の重鎮たち。
「されど、希望もある。聖女が現れる。光の刻印を持つ小麦と空の娘は、暗き道を照らし、闇を裂き、我らを千年の平穏へと導くであろう……」
少しのざわつきが、大聖堂の静謐を乱す。
それもそのはず。五年後、魔王の動きが活発となる前に、聖女の目星をつけねばならない。
神の言葉は抽象的だ。それを正しく解釈し、聖女を見つける必要がある。
「……兄弟たちよ。希望をさがすのじゃ。我らが希望はすでに生まれておる」
教皇の言葉に、一斉に立ち上がった司祭たちが規則正しい動きで大聖堂を退出していく。
危機であるとともに、チャンスでもある。
聖女を見つけたとなれば、教会での地位は確固たるものとなるからだ。
信仰の道を進む彼等とてまた、世俗の渦中にある。
「エルムス」
すっかり司祭たちが立ち去り、閑散とした大聖堂。
ただ一人、壇上で祈りをささげていた教皇様が僕の名前を呼んだ。
とても光栄で、珍しいことだ。
「何でございましょう」
「お前は神を信じるかい?」
何か、宗教的な問答だろうか。
ただの修道士見習いで、日々の掃除しかしていない僕にはよくわからない。
だから、思うがままを素直に答えた。
すると、教皇様は優しく微笑んで、僕の頭を撫でてくれた。
「エイムス。お前は真に物事を見通す目を持っているね。もしかすると、お前のような者が聖女を見つけるのかもしれない」
そんなやり取りがあってから、はや五年。
神託は現実となり、魔王は再び世界を侵略し始めた。
辺境の都市の一つが消え、今や世界は混乱の渦中にある。
──……いまだ、聖女を見つけられないままに。
だが、もしかするとそんな日々も今日で終わりかもしれない。
僕は、確かに見たのだ。
聖なる刻印を持つ、少女を。
この
「ああ、いた。彼女です」
行動を共にしていた神殿騎士たちに一声かけて、目当ての少女に近づく。
冒険者稼業で生活しているのか、粗悪な革鎧を着た痩せぎすの少女が、こちらをちらりと確認して、駆けだす。
「ちょっと、待って!」
思わず声を上げながら、
神殿騎士を伴ったのは失敗だったかもしれない。
鎧をきっちり着込んだ彼らは、やもすれば些か圧を与えすぎる。
露店なのか住居なのか判然としないテントが並ぶ辻を、全力で走る。
揺れる茶色い髪を目印に、足を動かすが……やはり、ホームタウンでは追いつけないか?
いいや、諦めるわけにはいかない。
しばし、鬼ごっこを続けた結果……観念したらしい彼女に追いつくことができた。
「っンだよ、てめぇ! しつけーぞ!」
釣り目をさらに吊り上げて、こちらを睨む少女。
真っ黒な瞳には怯えも油断もない。
「僕はエルムス。大聖堂所属の司祭です。君、名前は?」
「は? 名前も知らねーでアタシを追い回してたのかよ?」
まったくもってその通りだが、
「司祭サマが何の用事か知らねーけど、アタシは悪い事はなんもしてねぇぞ!」
「知ってるよ。でも、ちょっと確認したいことがあるので、一緒に来てもらえないだろうか」
少女の足が強張るのが見えた。
同行を拒否したいという意思の表れだろう。
「君を犯罪者扱いしてるわけじゃない。えーっと、何なら仕事の依頼として出してもいい」
「は? 頭沸いてんのか?」
「依頼内容は、僕とお茶をすることと、ちょっとした身体検査を受けてもらうこと」
「おいおい、聖職者。そういうお仕事は今やってねーんだわ。溜まってんならマルチナ通りに並んでる、かわいこちゃんのいる宿に行きな」
鼻で嗤いながら蔑んだ目で僕を見る。
身体検査ってそういう意味じゃないんだけどな。
「どうしてもだめかな?」
「はン! 生臭坊主め。おとなしくマスでもかいてろ!」
捨て台詞と共に走り出した少女だったが、すぐに足を止めた。
すでに逃げ道は神殿騎士によって封鎖されていたからだ。
「てめぇら、どけよ!」
「仕方ない。みんな、彼女を連れて行って。事情は落ち着けるところで話すから」
小さく頷いた神殿騎士が、少女を囲んで捕まえる。
あまりいい絵面でないことは承知しているが、また逃げられたら、今度はさらに時間がかかるかもしれない。
それは僕等にとっても、彼女にとってもあまり好ましくない状況だ。
「離せ! アタシが何したっていうんだよ!?」
「少なくとも、大聖堂所属の司祭に暴言は吐いてたよね」
暴れる少女に苦笑しながらそう告げると、「やっべ……」と一言言って、おとなしくなった。
国教であるエイル教の司祭に暴言を吐くのは、立派な犯罪である。
「そのことは不問にするから、大人しくついてきてくれないかな?」
「ホントか?」
「神に誓って」
できるだけ警戒されないように、少し背の低い彼女に目線をあわせて僕は笑う。
それを胡散臭げなものを見る目で見つめ返した少女が、盛大にため息をついた。
「わーったよ。アタシはセイラ。この
「ありがとう、セイラ。じゃあ、行こうか」
「ッチ……何だってアタシが……」
ぶつぶつと何か恨み言のようなことを言っているが、逃げる気はないようだ。
「セイラはずっと
「おうよ、生まれた時からな」
この言葉遣いと態度。
さて……彼女を『聖女』として大聖堂に連れて行ったら、顰蹙を買うだろうか?
きっと大騒ぎになってしまうだろう。
それでも、僕は彼女を連れて行かねばならない。
彼女こそが、待ち望んだ『聖女』だと、確信しているのだから。
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