No.4 『Los! Los! Los!』


「ここも閑散としちまってるなぁ?ま、無理もねぇか。こんな状況だ。

…な、相棒。飛ばしちまってもバレねぇんじゃねーか?」


「法定速度。お前のせいで面倒に巻き込まれるのだけは御免だ。」


「…ッチ。かってぇこと言うなよ。まァいいや。ハンドル握ってんのはお前だ。オレが退屈で寝ちまわないようにだけ頼むぜ。」


「ならよそ見して振り落とされないようにだけしてくれ。」


低く呻るマフラーをつまらなそうに眺めながらハンドサインで了解を示すこの気紛れカタナガミにため息をついてバイクを走らせる

確かに。今が夜という時間の問題もあるだろうが、バクの被害が広がるに連れ人通りも少なくなっている。この通りなんかは…


「……あァ? っ!やべぇ?!止めろ韻!目が合っちまった。さっきの路地奥………悪ぃ、肩貸せ…。」


「…轟?おい、轟!…くそっ」


ミイラ取りがミイラになる。甘く虚ろな夢の世界へ片道切符を拝見




……チ。誰だオレを呼んでやがるのは。頭に響いて煩ぇだろうが


「煩ぇな。ちっと黙りやがれ。」


「は。…如何なさいました。今や敵は目前。兵達が己を奮おうという時に夢想とは。よもや、あれを圧倒する策を…?」


「あァ?なんだお前。オレがなんだって……ああ、ことか。

随分と混ざってんなぁ?オイオイ化かすんならもう少しは頑張ってくれよ。

こんときゃオレは刀の中だ。ここに立ってたのはオレなんかじゃなく、女に逃げられ毎晩テメェの刀に詩詠んで自棄酒キメるようなどうしようもない莫迦だったろ。」


「お言葉ですが…先ほどから何をいいなさって」


「昔話だ。気にすんな。さて、と…?

オイお前らァ!よく聞け!耳の穴かっぽじってよぉく聞けよ?

敵は三百!オレらは二十。尻尾巻いて逃げてぇって奴はいるか?いるならそのケツ引っ叩いてやる。いいか?…いいな。

声上げろ!腹引き裂いて喉裂けるくらい馬鹿デカい声を上げろ!!

大地揺らし、山を吹っ飛ばして三界悉くに轟きビビらせろ!仙人共を引き摺り落とせ!!オレら最堅の砦にして最強の矛!ナメた真似しやがった大名共の首掻っ攫いに征くぞ!


お前らのロックもう一度オレに見せてみやがれッ!!」


キィィィン…と反響するマイク。余韻を引き裂く火薬の破裂音と撃鉄の静けさ


「何でもアリな夢に引き摺りこんだのはそっちだぜ?誰が記憶通りの再現に付き合ってやるって言ったよ。あ゛?

オレを狙ったのはマズかったな。聞こえてんだろ?オレの記憶ライブにノイズくれやがったんだ。…覚悟はできてんだろーな。」


けたたましくピアノが鍵盤を弾き出し、刀を構えた騎馬隊は銃を揃えた死を恐れぬ軍人と変わる。一斉に足を踏み出し怒りの炎はそのまま戦場を焼く焼夷弾となって空を埋め尽くす



『 Feuer! Sperrfeuer! Los!

  Achtung! Deckung! Hinlegen! Halt!

  Feuer! Sperrfeuer! Los!

  Achtung! Deckung! Hinlegen! Halt! 』


― To the battlefield! To the front lines!

  Then, to the edge of death!

   You must show the commitment that comes from laying down your life!


『 Feuer! Sperrfeuer! Los!

  Achtung! Deckung! Hinlegen! Halt! 』


― I'm sure that you can hear the roar of their cannons

  And the feeble cries of resistant maggots

   Crushed beneath our heels, even if they kneel!


「兵よ、オレのライブを邪魔した奴はどうするべきだと思う?

皆殺しだ!馬鹿は一人残さずだ!為すべきことは唯一つ


くだらねぇ嘘なんざ塗り替えろ!」


― Why do we spend every day advancing further through the flames

  And charging through a bulletstorm that falls upon us like the rain?

   You ask 'cause you don't understand! It's for our motherland!


― To the battlefield! To the front lines!

  Then, to the edge of death!

   You must show the commitment that comes from giving your life!

― Offer up your loyalty! Your submission!

  And then your soul!

   Give us all that you are, raising a triumphant war cry!


― Go forth and prove that we can erect

  A tower of corpses that can reach the sky!


『 Feuer! Sperrfeuer! Los!

  Achtung! Deckung! Hinlegen! Halt!

  Feuer! Sperrfeuer! Los!

  Achtung! Deckung! Hinlegen! Halt! 』


― Don't be surprised that your fear is losing its hold.

  Their blood and flesh erupt like a fireworks show!

   Splattering around! Covering the ground!


― All the scars that cover me are etched into my memory.

  How I love the fire's heat...the organs spilled throughout the streets...

   The music of their final cries... the clouded look within their eyes...

    Ahh, the pleasure they bring is what I truly seek!


― Seeking peace, tranquility,

  rapprochement, or compromise

   Are the acts of the tamed dogs who've thrown their fangs aside!

― Give us the madness that despair

  and pure chaos have brought to life!

   Some may say that it's Hell, but for us, it's Paradise!


― Don't you know that your limbs are made for dancing?

  So, fulfill their purpose and dance till you die!


「記憶、思い出に価値などない。目を曇らせる足枷など捨て去って

己の存在をその血に刻み付けろ!」


― Order and law may seem right in your eyes,

  but they're a construct created by madmen.

― Filled with deception and lies,

  their heresy rings hollow from beginning to end!


― To the battlefield! To the front lines!

  Then, to the edge of death!

   You must show the commitment that comes from giving your life!

― Offer up your loyalty! Your submission!

  And then your soul!

   Give us all that you are, raising a triumphant war cry!


― Go forth and prove that we can erect

  A tower of corpses to the sky, And a thundering explosive sound

   That's loud enough to drown out their remaining cries of ire!


『 Feuer! Sperrfeuer! Los!

  Achtung! Deckung! Hinlegen! Halt!

  Feuer! Sperrfeuer! Los!

  Achtung! Deckung! Hinlegen! Halt! 』



悪意を断ち切る剣閃。ぼろぼろと崩れ落ちる哀れ破れたバク


「……悪ぃな、相棒。歌わねぇオレは随分ななまくらだったろう?何せ14世紀も前の年代物だからな。」


「ようやくお目覚めか。随分と退屈な夢を見てたみたいだな?」


ここに寝かせた時のまま。壁に背を預けて座ったままで轟が語りだす


「あぁ…。目覚めた途端やれ着物に帯に化粧だとか。毎日上手くもねぇ詩を聞かされて返事はどうかとか言い寄って来やがってよ。

最期は首がすっとんで酒も飲めずに逝った退屈な男の夢だ。


…ッハ。オレにだりぃ名前だけ残していきやがって。あークソ!柄でもねぇ。

オレとしたことがを変えようとマイクを手に取るたぁな。妙なこと思い出しちまった。


韻。手貸しな。悪い酒無理やり飲まされて酔ってんだよ。」


「肩なら貸してやる。立ち上がってこれたらな。」


「言うじゃねーか。お前は遠慮がなくって良い。あとはコミュニケーション能力ってやつだけだな。これじゃいつまで経ってもバンドメンバーが集まらないぜ。」


「興味ないって知ってるだろ?」


「へっ だろーな。…で、どうする?オレを気遣って戻ってくれんのかい?それともまだやるか?」


「…それよりも、そのサングラス。何?」


「見て分かんねぇか?目を合わせなきゃ良いんだろ?なら隠しちまえばいいだろーが。」


「それ。本気で言ってるのか…?」



喧嘩腰に「あァ?」と抗議の声が上がった

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