第70話
既に深夜の時間帯。廃墟を離れ、宿へ向かう前に身体を休ませる為、細い路地に入った。
あたりに人影はなかったが、エルミナの仮面が壊れてしまった為、人目に付かなそうな場所を選んだ結果であった。
自分は大丈夫だと主張していたエルミナだったが、見た目通りダメージは大きかったようで、ここまでの道中もずっと足元がふらついていた。
「ふぅ……」
路地裏で黒ずんだ壁に背を付け、そっと地面に腰を下ろすエルミナ。
「エルミナさん。平気ですか?」
「ええ……。傷も、だいぶ塞がってきたわ……。少し休めばまともに動ける筈……」
そう言って腹部を押さえていた手を退ける。切り裂かれた服の隙間からは塞がり掛けの傷が見えた。傷口はぐじゅぐじゅと脈動する肉がのたうつように蠢いていて、絶え間なく再生が行われている。
想次郎はその傷口を見て、思わず息を呑んだ。そして視線をやや上へ移動させると……、
「…………ごくり」
彼女の胸の下部分が微かに露出しており、その際どい光景にまたも想次郎は息を呑んだ。
「はっ!」
少し遅れて想次郎の視線がよろしくない方へ向いていることに気付くエルミナ。咄嗟に両手を抱えるようにして想次郎の視線を遮る。
「こんな時にまで……なんて人です」
エルミナはまるでごみを見るような眼差しを想次郎に向けた。
「すみません! つい!」
「あとで覚えておきなさい」
流石にすぐに制裁を加える力が残されていないエルミナは、そう宣告をした。
やがてエルミナが動けるようになったので改めて宿へ戻ることにする二人。
皮膚が再生しても当然衣服の方は切り裂かれたまま元に戻るわけではないので、エルミナは想次郎から上着を借り、羽織ることにした。
だが幸いにも帰りの道中は誰とも出くわさなかった。
宿の入口が開いているかが心配であったが、どうやら帰りの遅い二人の為にクラナが気を利かせたらしく、入口は施錠されていなかった。
入口の戸を開けると『鍵を閉めておいてください』という置手紙が挟まれていたので、その通り施錠してからようやく部屋に戻ることができた二人。
睡眠を取らないアンデッドである筈のエルミナだったが、今日の出来事が余程堪えたのか、入室してすぐにベッドに倒れ込んでしまった。
想次郎も同じくベッドに横になり、今日はそのまま休むことにする。風呂へ入るどころか着替える気力すら残されていなかった。
「想次郎さん……」
エルミナはベッドの上でゆっくりと寝返りを打って身体を横にし、想次郎の方を向く。
「お互いに無事で良かったです……」
「ええ……本当に……」
想次郎も同じくベッドの上で横を向いてエルミナと向かい合う。
「僕……エルミナさんの言った通り甘かったですね。僕は……エルミナさんは他の魔物と違うって、人間と変わらないって、それは今でも思ってますけど、それでも他の人間に正体がバレるようなことがあってはいけない。それが痛い程わかりました」
「まあ、今回に関しては仕方ないでしょう。あんな事態は予期できません」
「でもこれに関しても元はと言えば僕の所為です……」
想次郎は自身のあまりの不甲斐なさに涙を浮かべた。
「あなたは本当に泣き虫ですね」
エルミナは呆れるように軽い溜息を吐く。
「すみません……」
耐えようと意識すればする程、想次郎の目元の水分量が増していった。毀れないように仰向けになる想次郎。ランタンの明かりが涙に滲み、天井がぼやけて見えた。
「あなたが守ってくれるのでしょう?」
「え?」
「ですから、あのようなことがあってもあなたがわたしを守ってくれる。前に自分で言っていたではないですか」
想次郎は袖で目元を拭う。
「ええ。勿論です。エルミナさんはどんなことがあっても僕が守ります」
力強く擦ってしまった所為か、想次郎は目元を真赤に腫らしながらも迷いのない返事を返した。そして改めて決意する。自身が口にした約束の重みを噛みしめながら。
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【魔法】
雷属性C4:トル・エル・ウルシオン
対象一体へ雷属性特大ダメージを与える。
今こそ雷神の裁きを。聞こし召せ。我が怒りを。その槍で以て世に仇なす者を打ち貫け。
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