最終話 雪の中に住んでいる
埋めたはずの危険物。
朝、日が照らすはずもないこの世界に日が射して、雪原の中央に鎮座したものは「出てきてはいけないもの」だった。
認識汚染。思考が黒に塗り潰される。認識できない黒、認識してはいけないものが黒で規制され、そこからさえはみ出した色が存在に干渉する。
嵐のような記憶を他人事のように遠くから認識する「俺」。
もう終わりかもしれないな、そう思う。
今までずっと誤魔化してきたものたちが折り重なって出土し、世界を、俺を、侵食する。
完全に支配されたとき、この世界は壊れるのか。そして「俺」も?
わからない。何もわからない。わかるのはただ、洪水が起こっているということだけ。
こんなことになるのなら、春なんて来ない方がよかった。
静観したのが間違いだった。
怠慢は滅びへの道だった。
本当にそうか?
わからない。何が俺をこうしたのかなんて。
認識汚染が広がる。
世界が融けてゆく。
ああ、俺は、俺は。
◆
雪が降っていた。
ただただ降っていた。
俺は歩いていた。
どこへ向かうともなく。
拾った石に祈っていた。
どうか■■ますようにと。
祈りは届かなかった。
◆
「――……」
目が覚める。
世界は白、凍り付いていた。
何もかもが白、白。
無論、雪原の真ん中にあったものも、白。
雪が降っている。
視界を覆い尽くすそれは全てを白く染めてゆく。
概念の雪、そうだ、寒くはない。
防衛機構、それがもう一度世界を閉ざそうとしているのだ。
春は来なかった。そうだ。
俺は安堵する。
この世界に春は早すぎた。いや、春など許されてはいなかった。
誰が許さないのか、俺か世界か雪か記憶か。
それを考えることはおそらくまた春を呼んでしまう、だから凍結されるのだ。
白。
きっとまた灰色になる。
そして当分、危険なものは表には出てこないだろう。
厳重に埋めたから。
本当にそれでいいのか、なんて問いは意味を成さない。
俺にはこれしかない。これしかできない。世界もそう、冬が明ければ終わってしまう。
これでよかったんだ。
守れてよかったんだ。
そして俺はまた、忘れて戻るのだろう。
白い息を吐きながら、雪に埋もれた機械たちを眺める。
いくら繰り返しても構わない。
平穏さえあればそれでいい。
間違った道であろうとも。
だから俺は――
雪の中に住んでいる。
雪と世界と「もの」と俺と Wkumo @Wkumo
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