第7話 融解の道

 雪に異常あり。

 と言われたわけではないのだが、何とも言えない感覚があって見回りに行く。

 異常という異常は……あったのだが、これは大したことだろうか。

 何って、融けかけているのだ。

 と言っても本当に融けているのではなく、いや融けているのかもしれないのだが、ジャラジャラの半液体上になっているだけだ。一部が。

 表面に泡などがあり、あまり綺麗な見た目ではない。

 俺は考え込む。

 これは融けるに任せるのがいいのか、それとも何か処置をした方がいいのか、どちらだろう。

 ううむ。

 考える。

 例によってわからない。

 そもそも俺が何かを考えて新しいことが「わかる」方が少ないのであって、この世界ではまあ考えても無駄というか、考えた方が危険というか、ふわふわに任せた方がうまくいくし、危険は少ないのだそもそも。

 それでもこの異常は今までにない特異っぷりなので俺は考えてしまう。

 これがこのまま続いたとして、融解が広がって雪原全体が融けたら……俺の足場がなくなってしまう。

 融けた雪の中に落ちて、溺れてしまうかもしれない。

 だが雪融け水も池のように溜まるのではなく案外地面に染み込むかどこかに流れ出して消えてしまって土が出てくるのかもしれない。

 つまり?

 春の到来。

 春。

 俺はそれに耐えられるのだろうか。

 わからない。それもわからない。

 わからなかったが、融けかけのところに誰かが落ちると危険なので周囲に黄色い柵を立てておいた。

『危険:融けています』

 落ちるような誰かって、俺以外に誰もいやしないのだけれども。

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