雪と世界と「もの」と俺と

Wkumo

第1話 雪を掘る

 雪の中を掘っている。

 本物の雪ではない、概念の雪。

 概念の雪はたくさんのデータが砕けて集まったもので、雪の下の「見られてはいけないもの」を隠しているという。

 今日は寒かったからたくさん雪が降った。昨日も寒かったからたくさん雪が降った。

 寒いから降るのか隠したいから降るのかそれはわからない。なにぶん俺に概念の雪のことはわからない。

 雪を掘っていったら何が見つかるかもわからない。見られてはいけないもの、というのが何なのか、それがわかるならそれは見られてはいけないものではない、と思う。

 誰に見られてはいけないのか。人間か、自然か、俺か。

 それはわからない。

 そもそもこの雪を誰が降らせたのかもわからない、それだって俺かもしれないし。

 潜行には時間がかかる。何日も使って役に立たないがらくたばかり見つかることもざら。

 貴重なものは滅多に見つからない。あっても前に見つけたことのあるものばかりだ。

 がらくたでも危険物なので、調べた後はきちんと埋め戻さなければならない。その作業も考慮すると、やはり時間がかかる。

 一度掘り出せばあとは勝手に掘ってくれるのでそこは楽だが、ものを発見したらすぐに対処しなければいけないのでそう楽でもない。作業の合間に作業をするのはあまりおすすめしない。

 まあ俺以外にこんな作業をやっている物好きなんていうのは別世界にしかいないとは思うのだが。

 なんて言ってもこの世界には俺以外の人がいない。そんなことでどうやって生きているのかと聞かれそうだがそこは概念なので問題ない。そういう風になっているのだ。

 概念、便利な言葉だ。だが概念はとらえ方一つですぐに変容してしまう危ういものでもある。

 危険物の対処を間違えて俺自身の形が変わってしまっては元も子もない。

 何のためにこの作業をやっているか、ということは俺自身にもわからない。したいからやっているのか、するしかないからやっているのか。

 とにかく作業をしないと前に進めないということはわかっている。この世界は雪に閉ざされている。

 それをいつか春にするのが目下の目標、なのかもしれない。

 春。

 夢に見たことはある。だがそれはあくまで夢、本物の春がどんなものかはわからない。

 この世界も昔は雪がなかったのだろうか。

 他の世界もこんな風に雪に閉ざされているのだろうか。

 いつかここに春が来たら他の世界にも行ってみたい。

 そんなことを考えながら今日も掘っているのだ。

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