阿部真理

「そんなに怒ることじゃなくないですか?」

 彼女は優しく言う。彼女は同じ文芸部の後輩だが、彼女の方が長く部に在籍している。彼女は部のリーダー的存在だった。

「よくあることじゃないですか」彼女は肩をすくめた。

「そうかもね」

「まあでも、ガチ勢とゆるゆる勢が合わないのは最初から目に見えてますよ」

「それもあるけど」

「阿部さんの意見もわかりますけど、阿部さん、書けない人を見下し過ぎじゃないですか?」

「そうじゃないと思う、ただ純粋にわかんないだけ」

「何がですか?」

「書きたくない、みたいな気持ちが」

「疲れているとか忙しいとかあるじゃないですか」

「そうね、配慮が足りなかったと思う。みんなが同じ時間を共有しているとは思わないけど」

「でも、締め切りに十分遅れただけで載せないって酷じゃないですか。これ、部活ではよくあることなんですよ。正直。そのためにスケ管余裕持っているわけですし」

「それもある。反省はしているの。本当に。みんなにはすごく感謝もしているし。でももうあんまりこれ以上文芸関係で関わりたくないみたい。本当に悪いとは思うけど」

「ふうん……まあ、そこは何とも言えません。それは個人の自由ですから。でもそれなら阿部さんが出ていく方が現実的ですね」

「私もそう思う」

「阿部さんがいないと、部誌、かなり薄くなっちゃいますね。いっつも阿部さんの作品で半分くらい埋まってて……」

「うん。でもまあ、私がいなかったときに戻る感じで、いいんじゃないかな」

「そうかもしれませんね……」

「私にもやりたいことが別に見つかったの。本当に申し訳ないとは思うけど」

「この前何か賞に応募したとか仰ってましたもんね。そんな感じですか?」

「そういう感じだと思う」

「止める権利はないですよ本当に」と彼女は言った。

「ただ寂しいのと、阿部さんが今後心配ではあります」

「私もそう思う。貴方の言うことはとてもわかるから」

 多分嘘は一つだけついた。


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