ブルーデージーの花を探しに
@aaaaazumi
序章
最後に覚えているのは、コーヒーの匂いと、誰かが怒鳴り合う声と銃声、それから陶器の割れる音。
その音と共に一度私の世界は真っ暗になった。
私はその時割られてしまったのだろう。
私はメイ、陶器で作られたビスクドール。
金の髪に青いドレス、青い瞳の、幸運のブルーデージーのブーケを持った陶器人形。
私を造り出した人が、「貴方は幸運の花束を持った幸運の人形、どうか持ち主を守って幸せにしてあげて」と持たせてくれた青い花のブーケを持った幸運の人形。
けれど私はブルーデージーのブーケを失くしてしまっていた。
私の持ち主は小さなアンティークのお店をやっていた。
時々淹れるコーヒーの香りがする、暖かくて小さなお店。
彼はランプの灯りの様に暖かく、穏やかな人だった。
けれどある日突然の電話から彼の生活は変わってしまった。
彼の母親が重い病に倒れたのだ。
突然女の子から電話があったと言っていた。
母親の家に駆け付けた時はもう彼の母親は倒れていたそうだ。
それから彼は病気の治療の為にお金を借りた。
治療の為に、同じ仕事をしている友達に相談して、お店の物も整理して、お店も売り払ってしまおうとしていた。
でもそれを見た借金取り達が、彼がこのまま店を片付け逃げ出そうとしていると思ってしまった。
私が割れたあの時、彼と言い争っている相手の手には銃が構えられているのを見た。
大きな声がして、やがて銃声が鳴って、他の男達もお店を荒し始めて、
その先は解らない、私の記憶は此処で終わってしまっている。
―――あの人は死んでしまったの?
……ああ、
あの時もし私の手にブーケがあったなら、
私が幸運の人形なら、
私はあの時あの人を救えたのだろうか。
私は暗闇の中でそう思っていた。
するとやがて光が差して、私はその場所で目を覚ましたのだった。
人に愛され、魂を持った人形達が行き着く世界。
夜の長い、満天の星と、季節に関わらず花が咲く星と花の世界。
その世界はこんな話がある。
強い思いを持った人形が、星の綺麗な夜に行きたい場所を強く思いながら花の横を通り過ぎると、時も時空も超えてその世界のその花が咲く場所に送り届けて貰えると。
私の名前はメイ、幸運の人形でなくなったビスクドール。
もしも全てを踏み越えて何処かへ行けるのならば、
もしもあの時まで時を戻せるのならば、
この動ける身体で失くしてしまったブルーデージーの花を見付けて、
あの時の私に持たせてやる事が出来るかしら。
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