小さな恋のメロディー

 サロンからピアノの音が聞こえた。友人の屋敷を訪ねるときはいつも妹君の練習時間と重なるのだ。先月よりもフレーズの一つ一つが伸びやかで澄んだ音をしているのに感心する。言えば、決して妹には告げるなと友人は声を潜めた。称賛は上達の良き友だろう、と指摘してやると、彼は腹でも痛むのか面白くなさそうに思い切り眉を下げた。


「一番に聴いてほしいのは『ヘンリーおにいさま』なんですって。だから、あれはヘンリー殿下の兄上に惜しみなく褒められてももれなくがっかりしますよ」


 出された弟の名に彼は納得した。末弟とオーキッド侯爵家の小さな令嬢が正式に婚約したのは先月のことである。


 道理で先ほどサロンの前で挨拶した侯爵――兄妹の父君である――が歯でも痛むかのような渋い顔をしていたのか、と。

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