□他の脱出方法を探す
窓は鉄格子やベニヤ板で塞がれてあったはずだ。
それらを剥がすのも容易ではない。
そこに時間を掛けるよりも、別の脱出ルートを探してそこから逃げ出した方が早いように思えた。
私は改めてそうした観点から、使えそうなものがないか家の中を見て回ることにした。
そう言えば──。
家の中を歩きながら、私の頭の中にある疑問が浮かんでいた。
この家はマンションやアパートといった集合住宅の一室のような間取りをしている。ならば、この家の隣室や上下にも他の住人が暮らしているのではないか。
そんな考えに至らず、先程は窓や扉に向かってドンチャン騒ぎをしたものだが果たして近隣の住民たちはそれを不審に思わなかったのだろうか。
「おーい、誰か! 助けてくれー!」
私は叫んだ。誰からも返事はない。
──それでも、誰かの耳に届く可能性も考えてひたすらに叫び続けた。
「おーい! おーい!」
──しかし、やはり反応はない。
集合住宅であっても周りが空室なのかもしれない。もしくはここが人里離れた廃墟の一室で、人の気配がない──なんてことはあるだろうか。
しばらく叫んでみたが、結局、何の成果も得られなかった。
周りに人は居ないようなので、近隣住民に助けを求める作戦は諦めることにした。
──ただ、外部に助けを求めることは有効であるように思えた。
その線を継続するとして、他に思い付く手段としては電話を使用することである。外部の人間に自分の状況を知らせることが出来るし、もしかしたら爆弾の解除方法も教えて貰えるかもしれない。
私は改めて、自分のポケットに手を入れてみた。
今更持ち物チェックである。
当然、電話は疎か財布すら入っていなかった。
まぁ、そうだと思ったが──携帯電話は何処にいったのであろう。
そもそも──私は携帯電話など持っていたのであろうか?
思い出そうとすると、記憶に靄がかかったようになる。私は困惑したものだ。
まさか記憶喪失みたいなシチュエーションが急に、自分に訪れるなどとは思いもしなかった。
──まぁ、私の記憶のことなど今はどうだって良い。そもそも拉致監禁された時点で、外部と容易く連絡が取れる手段──携帯電話は犯人に取り上げられているに決まっている。そんなものをおずおずと見過ごすはずがないだろう。
だから、私が元々携帯電話を所持していたかどうかなんて、ここで疑問を抱いていたところで仕方のない問題である。
携帯電話がないというのなら、この家に固定電話が設置されていたりしないのだろうか。
今時、取り付けてある方が珍しいのだが──万一を考えて、私は電話機を探してみることにした。
確か、廊下でそんなようなものを見掛けた気がしなくもない。
廊下に出てみたら──思った通りだ。
台の上に電話機が置いてあった。
先程のプレゼントボックスといい、私は何でこんな重要なものを見落としているのだろうか。まるで、意図的にそれから目を背けているとしか考えられない──。
自分自身に疑問を抱きつつも、私は受話器を取って耳に当てた。
『ツーッ』という通話音が流れてきた。
つまり──。
「電話が使える!」
電話線は生きていた。
切られていないようで、私は嬉しくて声を上げた。
これで、警察に連絡することが出来る。
何の迷いもなく、私は百十番のボタンをプッシュした。
──プルルッ!
──プルルルルルル……カチャッ!
数回コールしてから相手が出た。
『……はい、こちら百十番』
「た、助けて下さい! 私……誰かに閉じ込められていて、ここから出られないんです!」
『落ち着いて下さい……。貴方をさらった犯人は、近くに居ますか?』
尋ねられ、改めて確認するように辺りを見回した。
「……今はいません。閉じ込められていた部屋からは脱出したのですけど、ドアや窓が塞がれていて、外に出られないんです! それに……」
私はちらりと爆弾が設置されている部屋の扉に視線を向けた。
「爆弾が……今にも爆発しそうなんです。助けて下さい!」
『爆弾……ですが?』
オペレーターが驚いたような口調になる。
『すぐに所轄の警察や、巡回中の警察官を向かわせます。場所は分かりますか?』
「いえ、何も……。周りの景色が見えないので分かりません……」
『分かりました。固定電話でしょうか? こちらから探知を行います』
「お願いします! すぐに来てください!」
『……受話器は切らずに、置いておいて下さい。すぐに人を向かわせますので』
「助かった……」
私は受話器を置くと、安堵の息を吐いた。
爆発物処理班も一緒に来てくれることであろう。
頼もしい人たちが、すぐにこの家に駆け付けてくれる。ホッとしたら気が抜けて、私はその場にしゃがみ込んだ。
「このまま、警官が到着するのを待とう……」
──いや。
と、私は思い直したものだ。
まだ安心するのは早いのではないか──。
警察を待っている間にも、自分なりに脱出方法を探してみるべきではないのか。
何より、爆発のタイムリミットは迫っているのだ。そんな状況で、じっとなどしていられるのか──。
私の中に、二つの考えが頭に浮かんだ。
『休む』
『頑張る』
──この、二つに一つである。
どうしようか──。
私は改めて、自分に問い直したのであった。
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