三巡目・先手
【三回目・私】
目を覚した私は、バッと飛び起きた。
何があったのか直ぐ様、記憶を辿ってみる。
──確か、部屋から出ようと扉を開けたところでトラップに引っ掛かり、丸太で気絶をさせられたのだ──。
丸太が当たったところに触れてみる。
腫れがあり、痛みもあった。──が、そこまで激しく強いものではない。
結構な威力であったように見えたのだが──想像していたような凄まじい痛みは、感じなかった。
──まぁ、ここまでぐっすりと眠ることができていたのであるからそこまでの痛みではないのだろう。
それにしても──。
私は周囲を見回し、思わず首を傾げてしまった。
見覚えのない部屋の中に居た。──まぁ、これまでも私の知らない部屋ではあるのだが──先程まで居た部屋とはまた違った場所である。
意識を失っている間に、何者かに部屋を移動させられたようである。
──何故?
──なんのために……?
兎に角、何処に運ばれようと同じである。
早くここから脱出しないと──。
扉に手を掛けた。
どうせまた、扉には鍵が掛かっているだろうと期待はしていなかったが、扉は半開きの状態でそもそも鍵など掛かってはいなかった。
──随分と不用心なことである。
部屋の外にでろ──ということであろうか。
先程の部屋での丸太トラップの件もある。
まずは慎重に外の様子を見て、安全であることを確認した。ロープが這わせてあったり、何か仕掛けが設置されている様子もなさそうだ。
私はその部屋を出て、廊下を進んで行った。
向かうのは──玄関である。
外に出るには、やはり此処から出るのが一番であろう──という安易な考えから移動をした。
玄関に到着し、ドアノブに手を掛ける。
さすがに鍵が掛かっていて開かなかった。
ツマミを回して解錠したが、何故だか扉は開かない。先程の部屋同様、ドアノブが固定されているかのように動かなかった。
やはり、簡単には帰してくれる気はないらしい。
仕方なく別の脱出方法を探すことにした。
糸口を探して、家の中を歩き回る。
先程の一部屋とは違い、家の中を自由に歩き回れるようになって行動範囲が広がった。
──とはいえ、開かない扉もいくつかある。屋内全てを調べられるわけでもなさそうだ。
それに、行動範囲が広がったということは、裏を返せば私を監禁している犯人と出会す危険性も増したということであろう。
犯人も、この家の中の何処かに居るはずだ。近くで私の動向を監視し、狼狽えている姿を見てほくそ笑んでいるはずだ。
閉じた扉の何処かに犯人は居るのであろうか──それとも、たまたま今は出払っているのか──。
慎重に行動したが遭遇することはなかった。
──カチャッ!
扉が開いた部屋の中に入る。
次に訪れたのは台所だ。
此処には、窓があった。
──だが、ベニヤ板に釘が打ち付けられており開きそうにない。さらに入念に、その上から格子が嵌められていて随分と大掛かりな施工がしてあった。
恐らく、力でどうこうできる代物ではないだろう。
──ドアも駄目。
──窓も駄目。
駄目駄目ばかりでまた一つ、家から脱出するルートが断たれてしまった。
「どうすればいいんだ……」
行き詰まってしまった私は、今回はじめに目覚めた部屋へと戻ってみた。
進めなくなったらこの部屋に戻れ──と、誰かに教えられたかのような気がした。
導かれるように戻ってみると、ふと部屋の中央に置かれたテーブルの上に奇妙な箱があるのが目に止まった。
初めに居た時は、何故だかそれに気付かなかったが、最初から置かれていたのだろうか。
だとすれば、どうしてこんなに目立つものが視界に入らなかったのだろう。
──その箱は、まるでクリスマスや誕生日プレゼントで贈るような鮮やかな包装紙で包まれていた。可愛らしくフワフワのリボンで結ばれた──プレゼントボックス。
──チッ、チッ、チッ!
そんな可愛らしい箱の中から、奇妙な音が聞こえて来ていた。まるで秒針でも刻むかの様にチクタクという小さな音がする。
──更に、くぐもった声で、中から微かにこんな声も聞こえてきた。
『爆発まで、あと五分……』
それは、カウントダウンのアナウンスであった。
ハッキリと私の耳には聞こえた。
──爆発──と。
「ええっ!?」
驚きの余り、思わず声を上げてしまう。
まさか──そんなはずはない。少しは疑う気持ちがあり、恐る恐るプレゼントボックスに近付いて耳を当てた。
中からは確かに、チクタクチクタクという時計の針が進むような音が聞こえてくる。
プレゼントで目覚まし時計が入っている──なんてことはないだろう。それにしたって先程のアナウンスは何なのか。説明がつかない。
──考えられることとすれば、ただ一つ──。
テレビドラマや映画などに登場する時限爆弾──。
赤と青のどちらかのコードを切るか選択を迫られる──そんなワンシーンが頭の中に浮かんだ。
目の前にあるのは爆弾だ。それ以外の何ものでもない。
そう思うと、急に恐怖が込み上げてきた。私はゆっくりと後退った。壁に背中が当たり、それ以上後ろには行けなくなる。
目が離せなかった──。
今すぐにでも部屋から飛び出したい気持ちがあったが、目を逸らせば爆発するのではないかという錯覚にとらわれてしまう。
それに、家の中に閉じ込められていて脱出口もないのだから何処に居たって一緒である。
爆発から逃れることはできないのだ。
助かりたいなら、この家から脱出するか──もしくは爆弾を止める他、生き延びる方法はない。
──だとしても、現実的なのはどちらだろう。
私の頭の中に、三つの作戦が浮かんだものだ。
『扉や窓を破って脱出する』
『他の脱出方法を探す』
『爆弾を解除する』
どれを選択したって構わない。──私の生命が助かるというのなら、どれをしたって良い。
しかし、どれもこれも試す時間はなさそうだ。
タイムリミットがあるのだから一つに絞って、後は運否天賦でその選択と運命を共にしよう。
そもそもこうして考えている時間すら無駄である。時間はどんどん進んでおり、一刻の猶予もない。
私は運命の選択を迫られることとなった──。
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