仲良し家族、まとめて突然!異世界ライフ

ぷい16

魔王退治ととある商人の暗躍

憧れの車

 今日は中古車屋に来ている。娘の花菜香はなかは8才に、息子の風雅ふうがは6才になり、今、手持ちの車を売って、いろいろな経験をさせるため新しい車―とは言っても中古車だが―を探している最中だ。ここには何度も来ているので店の人間には顔をよく知られてしまった。いい掘り出し物がないかと物色していると、店のはしの方でとあるキャンピングカーが目にまった。

 周りをぐるりと見てみる。なかなかの大きさだが、うちの駐車場に入らない大きさではない。すると、店員が声をかけてきた。


「この車は人を選ぶので、他の車にした方がいいですよ」


 聞けば、前の持ち主がなかなかの趣味人で、いろいろ改造しているそうな。


「電気とてんぷら油のハイブリッド。聞いたことありませんか?台所から出た廃油で走る車なんですよ。まぁ、そこまでなら何とか趣味人を見つけてもう売れているはずなんですが…」


 まだこの車にしようと決めてはいないが秘密が気になる。


「何か問題でも?」


 と、先を促すと、


「この車、マニュアル車なんです」

「また趣味的な…」


 この国では90%くらいがオートマ限定で免許を取る。そしてマニュアル限定解除しても結局乗るのはオートマ車だ。マニュアル車が少ないからだ。


「俺、マニュアルで免許取ってますけど」


 俺はそう言って、免許証を見せる。


「本当だ。AT車に限るの文字がない。免許を取るのにご苦労されたでしょうに…」


 店員は少し顔をほころばせながらそう言い、


「ご興味がおありなら中も見てみますか?何なら中を見てみますか?ちょっとカギを取ってきますね」


 店員は鼻歌でも歌い出しそうな勢いでカギを取りに行った。何で2回言った?事務所からは「それ本当か?」と大きな声が響いた。


 店員の後ろから店長もついて来て鍵を開ける。俺は興味津々で中に入る。運転席の足下を見る。そしてシフトレバーを見る。なるほど、マニュアル車だ。

 感想。何か屋根を支える骨組みが何だか太い。それ以外はリラックスできそうで何だか落ち着く内装であった。

 外観だけならたいしたこともなかったのだが、この内装、気に入った。


「この車、キープで」


 思わずそんな言葉を言ってしまった。


「キープしなくても、こんな趣味道まっしぐらな車、売れませんって」


 そう、言った店員は、店長に頭をはたかれていた。俺は、


「ちょっと写真撮ってもいいですか?」


 と、聞いてみた。


「どうぞどうぞ。よく撮ってよくご検討下さい」


 店長はにこやかであった。

 俺は携帯でいくらか写真を撮り、


「近いうちに家族で来ます。そのときはよろしく」


 と言って、中古車屋を後にした。


     *


「ただいま」

「お父さんお帰りなさい」


 帰って来たら、娘の花菜香はなかと、息子の風雅ふうがが走って迎えに来てくれた。


「ママは?」

「台所でお料理してるよ」

「そうか」


 リビングに入ると、


「あなた、お帰りなさい。いい車あった?」

「おぅ。面白いのがあったぞ。写真撮ったから後で見せる」

「分りました。やっとあなたのお眼鏡にかなう車が見つかったのね。長かったわ」


 ちょっと言葉でチクリと刺される。確かに、車を探し始めて約1年。いい加減に決めて欲しかったのだろう。


 その後、おいしい夕食を食べ、スマートフォンをテレビに挿し、今日撮ったキャンピングカーの写真を見せる。妻は、


「思った程悪くないわね」


 と言った。


「明日はこの車を見に行くぞ!」


 と言うと、花菜香はなか風雅ふうがは、


「やったー!お出かけだ!」

「お出かけ!お出かけ!」


 とはしゃぎ回っていた。


     *


 次の日。例の中古車屋。


「すまん。例の趣味道まっしぐらのキャンピングカーのカギを持って来てくれ」


 そう店員に伝えた。昨日とは別の店員だ。


「あれはマニュアル車で…」


 店員が渋るので、


「これで文句はないだろう?」


 また、免許を見せる。


「確かに、問題ないです。少々お待ちください」


 店員がカギを持って来るまでに、家族をキャンピングカーの前まで案内した。妻は、


「これが例の車ですか。外観はまぁまぁですね」


 と言い、娘はいきなり走り出した。すると息子は後を追う。


「こら!2人とも、大人しくしなさい!」


 そう言っている間に店員がカギを持って来てくれた。店員がドアを開けると、息子がすっと中へ入っていった。


「オレ、一番乗りー!」

「何してるのよ!」


 娘は怒り出した。娘も車内に入り、2人で飛び跳ねる。妻は店員に、


「どうもわんぱくの子供ですみません」


 とあやまると、店員は、


「別に構いませんよ。壊しさえしなければ」


 と言った。


「お前も見てみなさい」


 と言って、妻にも内装を見させる。


「落ち着いていて、なかなかいいわね。あなたにしてはいいもの見つけられたじゃない」


 妻は一言一言きつい。


「で、ガソリン?軽油?」


 油種を聞いてきた。ガソリンスタンドには普通、軽油とガソリンとハイオクタンガソリンが売っている。入れる油種を間違えると最悪車が故障する。


「てんぷら油とか、台所の廃油だそうだ」


 と、答えた。


「…それじゃぁ、飲食店に頼んで油を集めなきゃいけないのね。面倒だわね」


 そう言いながら、笑っていた。別に嫌がっているのではなさそうだ。そう話していると、店員が、


「こちらの画面から、油種の変更ができますよ」


 ACCにして、画面を表示し、店員が操作すると、廃油、軽油と選択画面が出てきた。妻は、


「ほぅ。これは面白い機能ね」

「でも、切り替えは、燃料を全部抜いて、入れ替えてからにして下さいね」


 そう話していると、妻は気付いた。


「これ、マニュアル車じゃない!?」

「そうだよ」


 俺はふんぞり返った。


「マニュアル車に乗りたいって、あなた憶えてくれていたのね」


 妻は変わり者だ。好き好んでマニュアル車に乗りたいと常々言っていた。


「あなた、これにしましょう」


 妻がすごんでくる。


「お前たちもこれでいいかー?」


 息子や娘にも意見を聞く。


「オレ、これでいい」

「この内装かわいい。これにするー」


 子供たちにも好評のようだ。


 念のため試乗してみた。俺と妻が交替で。


「やっぱり、マニュアル車はいいわねー♪」


 妻は上機嫌だ。


 家族の意見は聞いた。手続きするのは俺だ。店員に、


「この車を買う。今乗っている車は売る。後で来るので書類を用意しておいてくれ」


 そう店員に頼み、家族を一旦家に帰し、昼食を食べ、実印を持ってまた中古車屋に行った。


     *


 買うと決めてから数度、中古車屋に通い、やっとあのキャンピングカーが我が家にやって来た。何だかてんぷら油の香ばしい匂いがする。早速、充電のため、コンセントと車を繋ぎ、充電する。妻は、


「燃料はこれでいいのね?」


 一斗缶を運んできた。料理で出た廃油をめていたらしい。


「うん。これをして天かすを取れば使えるはずだ」


 し器もフィルターも、前のオーナーが詰んでおり、備品としてそのままもらっておいた。ありがたく使わせてもらう。


 して給油して数度。満タンになった。

 車の後ろにはスペアタイヤとタンクが付いている。このタンクにも油を満たしておけばいいだろう。ちなみに飲み水のタンクは別に付いている。


「スペアのタンクに入ったのは半分くらいね。まぁいいわ。料理していれば出てくるものだし」


 家の中に入って、家族がそろった。


「次の休みは家族そろってお出かけするぞ!」


 そう発表すると、家族は喜んだ。

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