へべれけ
ピート
う、うぅん……なんで陽が差し込むんだ、眩しい。……頭、痛ぇ……飲みすぎたな……!?って、何処だ、ここ?
慌てて起き上がり、部屋を見渡す。俺の部屋じゃない、ホテルでもない。
「う、う~ん」
!?だ、誰だ?この娘。隣にショートヘアの女の子が寝てる。服は……着てない。
マジかぁ、覚えてない。なんにも覚えてない。
俺も裸だ。……寝たのか?
改めて、女の子を見てみる。化粧っ気のない顔だ、しかも可愛い……まつげ長いな。いやそうじゃない……ダメだ、何にも思い出せない。もし寝たなら、もったいねぇぞ、何にも覚えてないなんて。
「う、うぅん…!?」女が寝返りをうった拍子に、上半身があらわになる。
綺麗だ。思わずマジマジ見つめてしまう。もったいねぇ!なんで覚えてないよ?この娘と……くっそー。
「キャー!!誰よ、あんた!?」目が覚めたのか、彼女は慌てて上半身を隠す。
「騒ぐなよ、頭に響く。こっちが知りたいくらいだ。………なぁ、寝たのか?俺たち?」
「覚えてないの!?」不安そうに彼女がこたえる。
「まったくな。名前すら覚えてない……聞いたのかな?」情けなくつぶやく。
「私もよ……とにかくシャワー浴びてくる。ちなみに、ここは私の部屋よ……覗かないでよ」シーツで身をつつむと立ち上がった。
「俺は、悟志。吉岡悟志。あんたは?」
「私は静香、葉山静香。絶対に覗かないでよ!」
「騒ぐなよ!頭に響く」やっぱり綺麗だ。何で覚えてねぇんだ?3件目までは覚えてるんだがなぁ。
「おーい、グラス借りるぞ」一言断ると蛇口をひねる。アルコール漬けの胃に冷たい水が吸収され、少しずつ記憶が戻ってくる。
そうだ、4件目に入ったショットバーでぶつかったんだ。……だからって、何でこんな事に?
「何してんのよ?シャワー空いたから、浴びてきなさいよ。服、洗濯しといたわよ」
いつのまにか、静香が後に立っていた。
シーツではなく、部屋着なんだろうか?大きめのYシャツを羽織ってる。
……かえって色っぽいぞ、それ。
「ジッと見ないでよ。何か思い出したの?」上目づかいで悟志を見つめる。
「ちょっとな……シャワー借りるよ。下着の替えは、あるわけないよな?」
「当たり前でしょ。いるの?」
「ないなら、仕方ないさ。今度から飲みいく時は持ち歩くとするよ」
「サイズは?コンビニが近くにあるから買ってくるわよ。それと前ぐらい隠してくれない?」目のやり場に困るのか、恥ずかしいのか、顔を赤らめて目をそらす。
「助かる。下着はM、TシャツはLLで頼むよ。サイフ持ってってくれ」
「持ち逃げするかもよ?」
「俺だって泥棒するかもよ?」
「しないわよ、するならシャワー浴びてるうちにして、逃げてるでしょ?」
「あんたもしないさ。警察呼んだら捕まるの俺なのに、しなかったかろ?ありがたくシャワー借りるよ」
熱い湯が、汗とアルコールのけだるさを流していく。酔いは覚めてきたけど。……思い出せねぇ。彼女は思い出したのかな?
「下着、置いとくわよ」
「ありがと、今でるよ」
GパンにTシャツ姿の静香がキッチンで何かを作ってる。いい匂いがしてきた。
「買物、サンキュ」
「どういたしまして、大したものじゃないけど、朝食食べるでしょ?」
「なぁ、何でそんなに警戒心ないんだ?襲うかもしんないぞ、俺?」
「だったら、裸の時にしてるでしょ?席についてよ。トーストとコーヒーぐらいしかないけど、どうぞ」そう言うと朝食をテーブルに並べ始める。
「ごちそうさま、おいしかったよ。コーヒーおかわりいいかな?」
「ええ、待ってね」何だか同棲してるみたいだが、名前しかわからん。昨夜が初対面だよなぁ?
静香はミルで新しく豆を挽きはじめた。
「どうぞ、お互い今日は予定はなかったみたいね」
「みたいだな。……何か思い出したか?」
「してはないと思うけど……裸で寝てたみたいね」ため息と共につぶやく。
「そうか……俺はショットバーであんたとぶつかって、口論になった事しか思い出せない。その……もしもの時、責任はとる」
「あんたって呼ぶのはやめて、静香でいいわ。私も悟志って呼ぶから……いい?」
「わかった。どこまで思い出した?」
「悟志と屋台でラーメン食べたのしか思い出せない。言っておくけど、こんなの初めてよ」深くため息をおとす。
「俺もだ。彼女はいないから修羅場は迎えなくて済みそうだけどな」静香に恋人は……いるだろうな。
「心配そうにしてるけど、悟志も殴られたりする心配ないわよ。お互いに独り身でよかったわね」苦笑を浮かべる。
問題は何も解決しない、どれだけ会話をしても、肝心の記憶は思い出せないのだ。
互いの年令、仕事。そんな事がわかるだけ。
……昨夜、何が起きたのか?それはわからないままだ。
「ねぇ、明日の予定は?」
「明日?仕事も予定もない。のんびり過ごす予定だったからな。土日は休みだし」
「じゃあ、ショットバーからやり直しましょうよ。その場所に行った方が早いわ」
「マジ?」
「当然!行くわよ。案内してよ、どう行ったのか覚えてないんだから」笑いながらこたえる。
「まだ、オープンしてねぇよ」互いに独り身か……これは口説くべきだよな?少なくとも……脈はあるよな?。
「じゃあ、飲みましょ」静香はキッチンに向かうと、グラスとワインボトルを手に戻ってきた。
「いいのかよ、また飲んで?」呆れ顔で聞き返す。
「昨日に状況に近付けないとね」さも当然といった顔だ。
「わかったよ。では不思議な出会いにカンパーイ」ワインを注ぐと二人はグラスをかたむけた。
う、うぅん…!?ま、まさか?
隣で静香が気持ち良さそうに寝息を立ててる。腕と半身にかかる、ぬくもりと重みが心地良い。
またか?でも悪くない……何も覚えてねぇけど。
起きるまでこうしてるか。やっぱり可愛いよなぁ……また互いに裸か……けど覚えてねぇんだよな。酒やめよ、うん。
静香は寝息をたてたままだ。
「静香。俺……惚れたぞ」小さくつぶやく。
「う、うぅん」起こしちまったかな?
静香が抱きついてくる。まだ眠ってるようだ。
抱きしめしめたら、マズイよなぁ、でも顔と顔が触れ合う距離だ。何で覚えてないかなぁ?絶対禁酒する。髪にふれてみる……可愛いよな…。
「シラフで、こうなりたいよなぁ」つい声にでてしまった。
「そうね…」
「!?起きてたのか?いや起こしたのか?いつから起きてたんだ?」
「少し前からね」悪戯っぽく微笑む。悟志の体に抱きついたままだ。
「覚えてるか?……昨夜の事?」
「全然。でもさっきの言葉は覚えてるわよ」
「何のことだ?」
「酔ってのセリフじゃないわよね?」上目づかいでのぞきこむ。
「……本気だぞ」観念するように、つぶやく。
「私は、そうじゃなきゃしないわよ」
「!?思い出したのか?」
「いろいろね」悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、唇を重ねた。
「本気にするぞ」
「本気よ」
「覚えてないんだぞ?俺」
「さっきのセリフはシラフで本気なんでしょ?」
「あぁ本気で惚れた。今後俺以外と酒飲むのは禁止だ」
「それならお互いに禁酒した方がよくない?」
「かもな」苦笑いを浮かべながら、静香を抱きしめると、もう一度唇を重ねた。
「なぁ、俺、どう口説いたんだ?」
「内緒……なかなか情熱的だったわよ」
「ハァ~。俺、酒やめるわ。静香以外の女と、こんな風になりたくないからな」深くため息をつくと、そう約束した。
「やめなくていいわよ。私と飲みに行けばいいんだから」
「俺はシラフで抱きたいんだよ」
「じゃ、今からする?」
「な、何言ってんだよ」
「悟志って可愛いよね」
「からかうなよ」
「冗談で言わないわよ?」
「そ、そういうのはだな。だ、段階を踏むもんなんだよ」
「アハハ、悟志って可愛い」
「シャワー借りるよ」少しふくれると悟志は立ち上がった。
「替え用意してあるよ」
「!?何で?いつ?」
「昨夜、自分で買ってたじゃない」
「マジで?」
「一緒に浴びようか?」
「い、いいよ」慌てて浴室に飛び込む。
「何、テレてるのよ。昨日は全裸で歩き回ってたクセに」
「覗くなよ」立場、逆だなこりゃ、笑いがこみあげる。温かい気持ちで満たされていた。悪くないか、こんなのも。
「入るよー」突然、扉が開くと静香が入ってきた。無論、何も身につけていない。
綺麗だよなぁ……マジマジと静香を見つめる。
「エッチ!」
「見るに決まってんだろ?」抱きしめ、唇を重ねる。
「惚れた?」
「好きだよ、静香は?」
「……好きだよ」恥ずかしそうに微笑む。
「ちゃんとやりなおそうぜ。着替えたらデートしよ」
「うん」
浴室で二人はじゃれあうと、着替えを済ませ部屋をでた。
「今日は、アルコール抜きだかんな」
「うん」
悟志の腕に寄り添うように静香は抱きついた。
二人はお互いの事を話しながら歩きだした。
Fin
へべれけ ピート @peat_wizard
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