第32話 結婚の儀
武闘大会の翌々日、建国祭最終日。首都バベルは、魔王の娘レイリスと魔王軍参謀ユキとの結婚の儀が行われることもあり、朝からお祭り騒ぎであった。
「ヒャッハー!!この日を待ちわびていたぜぇ!!!!」
「レイリス様ーーーー!!」
「ユキ様ーーーーー!!」
「今日は騒ぐぞぉぉぉ!!!」
「「「おぉーーーーー!!!」」」
「それにしてもあのレイリス様が結婚だなんて……」
「しかも相手は、あの魔王様のお気に入りである参謀ユキ様だろ?」
「ユキ様、昨日の武闘大会でも凄かったわよね~」
「たしかに。ただの人間なのにあのヴァイ様を追い詰めるなんて…」
「今日のレイリス様の御姿……とんでもなくお美しいんだろうな……」
「激しく同意」
そして、肝心の悠貴達はと言うと、魔王城にて結婚の儀の準備を進めていた。
◇
「ふむふむ、中々良いではないかユキよ」
「そうですね魔王様」
「カッコいいぜユキ」
「そうなのか?」
俺は今魔王城にて、結婚の儀で着る衣装に着替えている。この世界でも婚姻の時の男の格好はタキシードなんだな。
因みに、シエスとファニスはレイリスの所にいる。
「そろそろレイリスの着替えも終わっている頃であろうから、様子を見に行くとしよう」
「姉貴のドレス姿、初めて見るな…」
「我もレイリス様のドレス姿を今まで見たことが無かったな」
「我が娘は動き辛いという理由で、ドレスを着るのを完全に拒んでいたからな」
「そういや、ラグエル様の方はどうなってるんですか?」
「えっと、どうなってるってのは…」
「勿論、恋愛事情ですよ」
「い、いや、俺はまだいいかなって…」
「では、今度お見合いとかでも開いてみようか」
「それはいいですね」
「ラグエル様イケメンだから、たくさんの女が来そうですね」
「ちょっ!?父上、そういうのは俺にはまだ早すぎると思うのですが」
「何を言う!もうお前は15歳になっているではないか」
「それはそうですけど…」
この世界では15歳で成人みたいな扱いになってるのか?
だとすると、シエスはもう少しだな。
「着いたぞ皆の者」
レイリス達が居る部屋に10分程で着いた。
「レイリス様、ユキ殿をお連れしました。入ってもよろしいですか?」
バルバがノックをし、そう尋ねると「入っていいわよ」との返事があった。
部屋へ入ると、ドレスを身に纏った3人と数人のメイドが出迎えた。
「おぉ……流石我が娘である」
「なんとお美しい…」
「ユキが羨ましいぜ」
と魔王、バルバ、アルゴがレイリスを見て呟く。
「ユッキー、どうかしらあたしのドレス姿は?」
髪と同じ蒼色で、胸元、背中を両方共出している大胆なロングドレス。団子状に纏められ、笄のようなもので括り上げている後ろ髪。頭に煌びやかなティアラ。誰もが綺麗と言うレベルだな。
「似合ってると思うぞ」
「ふふ、ありがと」
「ユキ、わたしの格好も良い感じ?」
「ユキさん、私にも感想をお願いします」
シエスは肩を少しだけ出している白のロングドレスに真珠っぽいネックレス。髪とかは特に弄っていない。
ファニスは膝辺りまでの真っ黒なドレスで髪をサイドテールにしている。
「2人も良い感じだな」
「なら良かった」
「ありがとうございます、ユキさん」
「しかし、レイリス様ホントにお綺麗ですね魔王様」
「………そうだな」
「魔王、俺もレイリスも着替え終わったことだし、バベルにもう行くのか?」
「あぁ、国民の皆も今か今かと楽しみにしているだろうからな」
「
「いや、今回は馬車で行くぞ」
馬車か……
乗り物酔いが激しいので正直乗りたくはないのだが…仕方ない。どうにか気合で乗り切る事にしよう。
「どうしたユキ殿?少し顔色が悪いようだが…」
「何でもないから気にするな。バベルに向かうなら早く行くぞ」
「そうであるな!」
「どうだ?我が国の馬車は。快適であろう?」
「全く揺れないね」
魔王城を出て10分程、俺達は馬車の中にいる。特注品なのか、ソファやら小さなタンスがあったりと、豪華な造りになっている。馬車と言うよりもキャンピングカーだな。
「フハハハハハ!我が国の最高技術によって作られた物の1つであるからな」
「ホントこの馬車快適ですよね。人間の国で乗った馬車は、揺れ過ぎて途中吐きそうになりました………」
「あぁ…あの時だな………」
「ユキ殿は大丈夫か?」
「問題ない」
獣道を走ってもほぼ揺れないとはな。これなら酔う事はほぼ無いかもな…
取り敢えず後で、どんな仕組みになっているのか調べさせてもらうとしよう。暫し考えていると、横に座っているレイリスが話しかけてきた。
「ふふっ、やっとあたし達夫婦になるのね」
「既に結婚していたようなもんだったけどな」
「あはは、そりゃそうかも。数か月もの間一緒に暮らしていたもんね」
「わたしとも一緒に暮らしていた」
「もちろんシエスの事忘れてないわよ」
「むむむ…私もユキさん達と一緒に暮らしたいです………」
「レイリス様とシエスの間に入るのは無理だろファニス…いてっ!?」
「何か言いました?」
「い、いえ何も言ってないです…」
「いつの間にか我輩空気になっておるな」
「我も同じですよ魔王様……」
馬車で移動すること約30分。漸くバベルに着いた。
そして、そのまま結婚の儀が行われる中央区にある大きな広場の近くまで馬車で進む。
広場の辺りに着くと、住民達から大きな歓声が上がった。
「「「レイリス様ーーーー!!!」」」
「「「ユキ様ーーーー!!!」」」
「この日を……この日を……ずっとお待ちしておりましたぞぉおおお!!!」
「キタキタキターーー!!」
「ご結婚おめでとうございまーーーす!!!」
バベルの住民、魔王領にある村の長を含めた連中が、大きな広場を埋め尽くさんばかりに集まっている。
「ブイの村長のアウルやエルドラ、オファニもいるな」
「アルフお爺ちゃんも見つけた」
「あぁ……やっぱり……」
「シュテンのオーガ達は大げさ過ぎるから、すぐ判っちまうよな…」
「ですね…」
「では、そろそろ始めようか。レイリス様、ユキ殿、我が呼んだら来て下さいね」
「「分かった(わ)」」
馬車から降りたバルバはそのまま広場の中央付近まで歩いて行き、拡声用の魔道具を用いて挨拶を始めた。
「本日は忙しい中集まっていただきありがとう。これより結婚の儀を開始する!」
「「「うおおおおおおーーー!!!」」」
「レイリス様、ユキ殿、こちらへ!」
バルバに呼ばれたため、レイリスと共に馬車を降り、腕を組みながらバルバの元へ歩いて行く。
「レイリス様素敵ーーー!!」
「レイリス様のドレス姿、眩しすぎてまともに見れねぇ……」
「馬鹿野郎!今見ないでどうするんだ!もうこの先一度も着て下さらないかもしれないんだぞ!」
「ユキ様も中々じゃない?」
「あぁ……あの目で見られながら罵られたい…」
「えっ…ちょ、アンタ……」
「俺はレイリス様に踏んづけられたい……」
「ここにも変態が!?」
歩いている最中色んな連中の会話が聞こえてきた。一部変態発言をしていたようだが……隣で歩いているレイリスの耳にも入っているらしく、若干引いていた。
さて、今のうちに結婚の儀の流れについて話しておくか。
今回の結婚の儀はシンプルだ。俺の紹介、式、魔王の締めの3つが行われる。
通常であれば他にも色々やるそうだが、俺とレイリスに配慮してくれたのか短めでやる事にしたらしい。
バルバの元へ着くと、バルバは俺の紹介を始めた。
「皆も知っているだろうが改めてユキ殿の事について話ておこう。ユキ殿は人間であるが、魔王軍の参謀を務めることになった者である。人間の国にて無実の罪で処刑されそうになったが、どうにか生き延びて、ここ魔王領に辿り着いた。そして道中の出来事と魔王様からの仕事の結果を評価され参謀となったのだ」
俺の紹介が終わると、どことなく同情のような視線と尊敬のような視線が至る所から俺に向けられた。一部号泣している奴もいたが……
そういや、俺が異世界から来たというのは伝えなかったな。
「続けて式に入らせてもらうぞ!」
「「「おおおおおぉぉーーーー!!!!!」」」
「ユキ殿、レイリス様をいついかなる時も愛し、死ぬまで時を共にする事を誓えるか?」
「誓おう」
「レイリス様、ユキ殿をいついかなる時も愛し、死ぬまで時を共にする事を誓えますか?」
「誓うわ」
「では誓のキスを」
「ユッキー……」
「……あぁ」
そして俺とレイリスはキスをした。
した瞬間今までで一番大きな歓声が上がった。
「おめでとうございまーーす!!」
「レイリス様ーー、ユキ様ーー、永遠にお幸せに!!」
「お幸せにーー!!」
「あぁ………尊い…」
「うっ……うおぉぉ……」
「ぞ、族長……俺、生きてで良かったでふ…」
「わ、解るぞぉ、そのぎもぢ…」
住民達があれやこれやと騒いでいるが、バルバは気にせず続けていく。
「最後に魔王様、締めのお言葉をお願い致します」
バルバの言葉に魔王が馬車から降りて俺達の近くに来た。
「今日、我が娘とユキの結婚の儀のために集まってくれた皆の者、感謝する。そして、これからも我が娘達の事を温かく見守っていってほしい」
そう言い終わると、「勿論です魔王様ーーー!」とか、「分かっております!」と言った声があちこちから上がった。
「では、これにて結婚の儀は終了だ!」
その後、ダンスやら曲芸、剣舞等、色々な出し物を見つつ建国祭最終日を過ごしていった。
さて、建国祭も充分味わったことだし、そろそろ帰るとするか。
「さて、そろそろ帰るぞ」
「うん。お腹も空いたし」
「分かったわ」
「魔王達も一緒に来るか?今日は色々と豪勢な料理を作る予定なんだが」
「「豪勢な料理!?」」
「もちろん参加させてもらうぞユキ殿」
「私は絶対行きますよ!」
「俺もだぜ!」
「俺も行くよ兄貴。にしても兄貴の料理か………楽しみだ」
「ユッキーの料理は絶品なんだから、楽しみにしてなさい」
「そうですよラグエル様。ユキさんの料理はとっても美味しいんですから」
「それはそうと魔王様、例の件なのですが…」
「あの件であるか。それなら…」
「ところで、ラグエル様はどんな女性がタイプなのですか?」
「えっ!?」
「ナイスだファニス!」
「そうね、折角だし吐いちゃいなさいよラグエル」
「えぇ……」
仕事の話をしだした魔王とバルバ。ラグエルに絡んでいるレイリス達を後ろから眺めていたら、ふと思ってしまった。
俺は家族に捨てられ、様々な人間から罵倒や暴力をずっと振るわれ、存在を否定され続けてきた。しかし、この世界では俺を認めてくれる奴がいる。俺に対して罵倒することも暴力を振るうことをしない奴がいる。
そして、魔王城の書斎にある書物を読む為とはいえ所帯、家族を持つことになってしまった。
だが、なんとなく………
「悪くはない…か」
「あっ、ユキ」
「どうしたシエス?」
「今、ホントに少しだけユキが笑ったように見えた」
「………そうか」
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