第30話 武闘大会前編

 北区へ移動した俺達は、武闘大会の参加受付をしている場所に来ていた。


「ここが受付か?」

「そのようだな」

「さっさと参加登録しましょうぜ隊長、ユキ」




「これはこれは、バルバ様、アルゴ様、ユキ様。もしや武闘大会に参加されるのですか?」

「ヴァイに誘われたものでな。まだ参加枠はあるか?」

「もちろんでございます。ただ、初級の枠はもう埋まっていますので中級と上級しか空いていませんが…」

「初級、中級、上級?」

「ユキ様は初めてでしたね。ではご説明させていただきます」


 受付の説明によると…

 初級……何も闘う術を知らない人でも闘いをしてみたい人向けの枠。子供、女性も参加でき、一番危険が少ない枠でもある。形式は1対1の勝ち抜き戦。

 中級……剣術であったり、魔法を修練をしている等、それなりに自分の腕に自信がある人同士による腕試ししたい人向けの枠。形式はトーナメント。

 上級……魔王領最強を目指したい人向けの枠。魔王領の至る所から猛者が集まるため、一番盛り上がる。形式は中級同様トーナメント。


 試合のルールは基本どちらかが戦闘不能もしくはギブアップをしたら終了。

 ただ、初級の場合は鉢巻を取られたら負けという追加ルールがある。子供や女性も出場するからであろう。


「説明は以上です。ご質問はございますか?」

「いや、特に無い。バルバとアルゴ、お前ら中級と上級どっちに出る?」

「俺はもちろん上級だぜ。今度こそアイツに勝ってやる!」

「我も上級に出場するぞ」

「なら、俺も上級にするか(今の自分がどれだけ戦えるのか見極めるのに上級が一番良さそうだしな)」

「御三方共、上級でございますね。……受付完了です。トーナメント表は20分後、会場にて掲示されますのでご確認ください」

「分かった」




 受付を後にした俺達はバルバの案内の元、大会を行う会場へ移動している。シエス達は先に会場へ行っている。


「アルゴの勝ちたい相手はどんな奴だ?」

「俺の勝ちたい相手はフォール隊長の部隊にいるレガレスって男だ」

「レガレスはグリオスの中で一番強い男である。我等を除いた場合ではあるがな。っと、話している間に着いたようだな」

「ここが会場か」


 会場はコロッ〇オを四角にしたような感じの建物だ。会場から歓声が響いているあたり、初級の試合でもやっているようだな。

 ついでに、出入り口前でニコニコと笑いながら待っているレイリスとファニス、無表情のままつっ立っているのシエス達3人娘の姿が目に入った。


「ユッキー!参加登録終わったの?」

「上級とやらで登録した」

「上級に登録って…大丈夫なの?」

「レイリス様、ユキ殿であれば大丈夫ですよ」

「そうですよレイリス様。ユキさんは強いですもん」

「ん、ユキは負けない」


 正直勝てるかどうかも判らんのに、そんな期待されてもな……


「入るぞ、お前ら」

「ん……」


中へ入ると、会場内が多くの人(オーガ等の魔物も含む)で賑わっていた


「かなり混んでいるな」

「建国祭の中でも1、2を争う程の人気のイベントであるからな」

「こりゃ、逸れないようにしとかないといけないですぜ」

「ユキ、手繋ご?」

「いいぞ」

「ありがと」

「ならあたしは背中におぶさるわ!」

「私はシエスの反対側ですね」

「好きにしな」


「ユキって、色々すげぇや…」







「そろそろトーナメント表が張り出される頃だな。見に行こうぜ!」

「分かった」


 会場入りして20分経った。

 トーナメントー表が張り出されたようだから見に行く。


「ほう……我の初戦は中々厳しくなりそうだな」

「いやいや、隊長の実力なら余裕でしょ…」

「そうか?」

「ユッキーの相手は……ダンってやつね」

「ダンですか」

「ファニス、知ってるの?」

「たしか、ルーチさんの部隊に入っている方です」

「強いのか?」

「どうでしょう…私は対したことがないので判らないです。アルゴはどうです?」

「俺も知らねえな」


 情報が無いなら仕方ない。だが、何も情報が無い状態での戦いをするという経験が、ノーリスクで出来るというのは良いことだ。


「アルゴの相手は誰だ?」

「俺の相手はレガレスだぜ、ユキ!」

「初っ端から本命がきたのか」

「こりゃラッキーだぜ」

「しかも第1試合だな」


 ここで、上級出場者は規定の場所に集まるようにとの呼び掛けが入る。


「いよいよであるな」

「じゃ、また後でなお前ら」

「うん、頑張ってねユキ」

「あぁ、分かってるよ」


 シエスの頭を撫でながらそう答えてやると、レイリスとファニスが「ずるい!」と言いながら俺に突撃してきた。


「いきなり突っ込んでくるなお前ら…シエスが怪我をしたらどうする」

「いや、ツッコむところそこじゃないだろユキ…」




 ◇


 再び時は過ぎ、上級の試合が始まる時間となった。

 第1試合に出るアルゴは、ステージ上で試合が始まるのを今か今かと待っていた。


「レガレス!今回は俺が勝たせてもらうぜ!」

「ふっ、今回も拙者が勝たせてもらう!」


「上級1回戦、第1試合!アルゴ選手対レガレス選手の試合を行う!……始め!!」


 審判の開始の合図と同時にアルゴがレガレスに突っ込んでいく。


「おらぁ!!」

「相変わらずだな其方は…」

「これが俺の戦い方だからな!」


 アルゴは縦、横、斜め……怒涛の剣撃で攻めつつ、所々に殴る蹴る等、体術を混ぜながらレガレスを攻めていく。だが、レガレスは完全に見切っているのか、アルゴの攻撃を最小限の動きと小刀で全ていなす。


「チッ!これならどうだ『烈火散弾ラピッドファイヤ!』」

「効かぬ!」


 30を超える大きな炎の針がレガレスを襲う。だが、これも見切られており炎の針全てを小刀で撃ち落とした。


「やっぱつええな……」

「其方も以前より格段と強くなっているようだな」

「隊長の元で鍛えまくったからな」




 その後、アルゴとレガレスは魔法と剣撃互角の勝負を数分繰り広げるも、レガレスがアルゴの一瞬の隙を突き戦闘不能にさせた。


「第1試合勝者はレガレス選手です!」


「だぁ~!!また負けた!」

「結構拙者も危なかったぞアルゴ…」

「まぁいい。次は勝つからな」

「次も拙者が勝つぞ」


 観客達から盛大な拍手が送られ、アルゴとレガレスの試合は終わった。



 それから3試合が終了し、バルバの番となった。


「第5試合、バルバ選手対ラース選手の試合を行う!……始め!」

「よっしゃ!いくz……」

「すまぬな…」


 バルバは瞬間移動テレポートで相手の背後を取り、身体強化した手刀で相手の意識を刈り取った。


「だ、第5試合勝者、バルバさ…いえバルバ選手です!」

「審判よ、会場の医務室は何処だ?」

「待機部屋を出て左に曲がったところにあります」

「感謝する」


 意識を失っているラースを担いだ後、バルバは転移トランスを唱え、その場を後にした。


 バルバの試合を待機部屋から見ていた悠貴は…


「流石魔王軍幹部といったところか。全く勝てる気がしないな」


 と小さく呟いていた。



 ◇


 バルバの試合から更に4試合終わり、遂に俺の番が回ってきた。


「1回戦最終試合、ダン選手対ユキ選手の試合を行う!……始め!」

「アンタが噂の人間だな!どんだけつえーか、確かめさせてもらうぜぇ!」

「…………」


 こいつもアルゴと同じタイプか…

 殴りと蹴りの連続攻撃をギリギリの距離で躱し、バックステップで一度距離を取る。


「中々良い動きするじゃねぇか参謀さんよ」


 コイツの得物はナックルダスターか…こういう相手は遠距離で魔法攻めするのが良いのだろう。

 俺は魔力が少ないため接近戦しかないんだがな…

 とりあえず、もう少し様子見した後攻めに出るか。




「ホラホラどうしたぁ!オレが怖いかぁ!?」

「…………大体お前の動きは判った」

「んなっ!?」


 防戦一方だった俺が急に攻めに転じたことに驚いたのだろうか固まっている。

 無論その隙を逃してやる程、俺は優しくはない。


「ふんっ!」

「ぐほあっ!?」


 ヤツの無防備の体に、身体強化プラス炎纏いウェアファイアを唱え、炎を纏わせた拳をぶち込んだ。イメージは某対戦ゲームのキャラの必殺技だ。

 意外と威力があったのか、うつ伏せに倒れ動かなくなった。

 審判が駆け寄り、ヤツの状態を見る。30秒程確認するとこう告げた。


「最終試合、勝者、ユキ選手です!」


「ユッキー!!!カッコよかったよーー!!!」

「スゴイです!!ユキさん!!!」


 声のした方を向くと、シエス達3人が柵に身を乗り出しながらこっちに手を振っているのが目に入った。シエスは軽くだが…

 シエス達に手を挙げながら待機部屋へ移動した。

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