第8話 襲撃

 シエスが寝始めて、約1時間が経過した。


「何かしら仕掛けてくるとしたらそろそろか?」


 と思っていたら、急に殺気を感じたためシエスを引き寄せベッドの上から転がり落ちた。その直後俺達がいた場所に、部屋の窓を突き破りながら矢が3本突き刺さった。


「ちっ、やっぱり来たか…」

「ん……ユキ、どうしたの?」


 転がり落ちた衝撃で目を覚ましたのか、シエスが何があったのかと訊いてきた。


「襲撃だ。起きたばっかで悪いが、直ぐに移動出来る準備と、索敵して敵の少ない方向を教えてくれ」

「分かった」


 それにしてもいつ俺達の正体がバレた?門を通るときは姿を消していたし、噴水のある広場で手配書を見ながら話してはいたが、大きい声ではなかった為、噴水の音で掻き消されている筈だ。


「(という事はここへ入った時か?だが、ここへ入る時幻影イリュージョンで顔を変えてるから万が一見られたとしても気付かれない筈。そうなら、1番怪しいのはあの老人か…)」


 バレた原因を考察しているとシエスが準備と索敵を終えたと言ってきた。


「ユキ、あっちの方角が手薄になってる」


 と言って、シエスが指を指した方角は西。


「予定変更だシエス。ダリル王国に行くのは諦めて魔王の処へ行くぞ」

「どうして?」

「ここを突破してダリル王国へ辿り着けたとしても、ダリル王国で待ち伏せ等をされる可能性がある。その点、魔王の処なら、危険ではあるが姿を眩ませる事ができ、上手くいけば俺達の死を偽れる事もできるからだ」

「分かった、ユキの決定に従う」

「ありがとなシエス。そして、ここの突破方法だが……シエス、この建物は今包囲されてるな?」

「うん。人数は大体20人くらい」

「約20か……なら特に問題ないな。突破方法はそこの窓から外に出て、身体強化で一気にこの街を離れる。そのまま魔王の処へ行くというシンプルな方法だ」

「了解」

「……行くぞ!」



 外に出た俺達を待ち構えていたのは、不知火嘉音達クラスメイトの連中だった。


「矢神君!君は僕達に完全に包囲されてる!大人しく捕まるんだ!出来れば君を傷付けたくない!」

「折角嘉音様がこう仰ってるのよ、言う通りにしなさい!この祟り神!」

「奴隷の少女を解放しろー!この祟り神!」

「そうだ!てめぇが女の子と一緒に冒険とか、有り得ねぇんだよ!」

「そういうのは俺達にこそ相応しいんだよ!」

「あっ!待て矢神君!」


 俺を見た瞬間、各々が色々と言い始めたが、完全に無視してこの街からの脱出を図る。

 当然、逃げる俺達を追いかけてくる不知火達。と、ここで考えが1つ頭に過ぎった。


「(コイツらが相手なら誰か1人人質に出来るんじゃないか?国王を唆して俺を殺そうとしたこの連中のことだ、多少人間を傷付ける事は出来てもを行う度胸は無い。加えて、コイツらの顔や手などに何かしらの怪我や傷が全く無く、着ている服は戦闘用のであろうが、泥や土がひとつも付いていない。つまり訓練や狩等を殆どしていないのであろう。ということは、戦闘慣れしていないため、スペックでは完全に劣っているが、経験の差で誰か1人を人質として捕まえられるかもな。こっちにはシエスもいるし)」


「ユキ、難しい顔をしてどうしたの?」

「少し考え事をな。それでシエス、ちょっといいか?」


 今考え付いた人質についてシエスに教えた。


「分かった」

「3秒後にアイツらに突っ込んで迅雷じんらいを頼む。その後俺が人質にするやつを殴ってくる」

「(コクッ)」

「(3、2、1…)シエス!」

「うん!」

「なっ!?」

「『迅雷じんらい』」


 逃げていた俺達がいきなり踵を返して突っ込んできたことに、クラスメイト達は驚き硬直してしまった。その隙を逃すこと無くシエスが迅雷じんらいをぶち込む。


「あばばばばば」

「きゃあああ!」

「があああ!」


 完全に虚を衝いた一撃となったため、全員仰向け、もしくは俯けに倒れ込んだ。


「(アイツにするか…)」


 人質にするやつを仰向けで倒れており、高貴そうな服を着ている女に1秒で決めた後、身体強化した拳で鳩尾を殴り、意識を刈り取った。


「行くぞ」

「うん」

「ま…待て…か、彼女をど…どうするつもり…なんだ…」


 意識を刈り取った女を担ぎ上げてシエスと共にこの場から離れる。不知火嘉音が何か言っているが無視だ。



 クラスメイト達を蹴散らした後、屋根伝いに走り続けて約5分。俺達は街の城壁まであと100メートル程の所まできた。


「ユキ、もうそろそろ脱出できるね」

「みたいだな。警備の兵士は約…50人程か。シエス、念の為に魔晶石を貸してくれ」

「分かった。…はい」

「ありがとな」


 街の城壁の上の所に約20、下の門辺りに約30か…

「どっちを攻める?」

「人数的に上だな。下だと、他の場所にいる兵士が合流してくる可能性があるからな」

「了解」


 そして俺達の姿を確認したのか、敵の隊長らしき兵士が叫ぶ。


「全兵構え!!標的は災厄をもたらす人間だ!しかし、ヤツは勇者様御一行のお1人を人質にしている!最新の注意を払って攻撃するように!」

「「「「了解!!!」」」」


 一応、攻撃はしてくるのか…なら、人質を盾替わりにして突っ込むか。


「なっ!?これでは攻撃が出来ない!」

「貴様、卑怯だぞ!」

「隊長!どうするんですか!?」

「ぐぬぬ……おのれ…この外道め…」


「シエス、このまま一気に脱出する。風魔法を頼む」

「任せて。……『風加速エアドライブ』」


 シエスの魔法と脚への身体強化を最大に強化してジャンプし、一気に城壁を跳び越える。その際、空中で逸れないようにシエスの片手をしっかり握っておく。


「隊長!奴らこの街から脱出します!」

「仕方ない、今だ!全員、魔法で奴らを撃ち落とせ!森へ絶対に入らせるなよ!」

「「「「了解です、隊長!」」」」


 兵士全員、俺達へ手を向けて何か呟き始めた。


 この兵士達、無詠唱出来ないのか…ならば。


「シエス、今すぐ風加速エアドライブだ。このまま森へ入り、魔王領へ進む」

「分かった。『風加速エアドライブ』」


「しまった!?詠唱急げ!」

「(もう遅い)」


 風加速エアドライブによって更にスピードを上げた俺達は、そのままのスピードで森へ入った。

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