あおいひと

北見夕夜

あおいひと

 ぼくのクラスに、転校生がきた。

 その転校生の体の色は、青だった。青っぽいわけではなくて、本当の青。空の青。海の青。その青だ。クラスのみんなは、おどろいていたけど、先生は、べつにふつうだった。

 青い転校生の名前は、アオ。遠い外国からきたって、先生が言った。

 先生にアオと、しょうかいされると、アオはうれしそうに笑って、おじぎをした。


 アオは、教室の一番うしろの席にすわった。

 ぼくは、アオにきょうみしんしんだった。休み時間になったら、一番にトモダチになろうと思った。

 チャイムがなって、休み時間になったので、ぼくはアオの席に向かおうとした。だけど、ぼくは、同じクラスの、タカシたちに、よび止められた。タカシは、背が高くて、すこし太っている。タカシは、アオを変だと思うと言った。僕が、何が変なのか聞いたら、体の色だと言った。たしかに、ぼくも体の色が青いのは、変だと思った。

 タカシは、アオをこわいと言った。何がこわいのかとぼくがきくと、タカシはしばらくかんがえていたけど、けっきょく、こわいからこわいと言った。そういわれると、すこしだけアオは、こわいきがした。

 タカシたちは、アオとは、トモダチにならないと言った。だけど、ぼくは、アオとトモダチになりたかったので、いやだと言った。タカシたちは、ぼくがアオとトモダチになったら、ぼくとはもうあそばないと言ってきた。それは、こまる。しかたがないので、ぼくはアオとトモダチになるのをやめた。

 アオは、いつもひとりぼっちになった。


 アオがクラスに来て、一ヶ月がたった。

 いまだに、アオがほかのだれかと話をするのを見たことがなかった。しばらくは、気になっていたけど、だんだんどうでもよくなってきて、アオが一人でいても、気にならなくなった。

 ぼくが、タカシとサッカーをしていても、アオはぽつんとひとり。

 ぼくが、みんなとしゅくだいをしていても、アオはぽつんとひとり。

 ぼくが、・・・・・・・・・・・・・・・アオはぽつんとひとり。

 アオは、いつもぽつんとひとり。


 ある日、ぼくとタカシたちがサッカーのあと、いっしょにかえっていると、むこうから、犬をつれた、アオがあるいてきた。

 アオの犬も青かった。

 それをみて、タカシたちがまたこわいと言った。

 そう言われると、やっぱりその犬はこわい気がした。

 アオが、犬をつれて近づいてきた。

 誰かが、あれは、わるい犬にちがいないと言いだした。

 そう言われて、アオとアオの犬を見たら、もっとこわくなった。

 タカシたちは、わあっ、と言うと、足もとの石をひろって、アオの犬に投げつけはじめた。

 アオは、あわてて、犬をつれてにげはじめた。

 だけど、石の一つが、アオの犬の頭にあたった。

 犬は、キャインと鳴いて、たおれたまま動かなくなった。アオがあわてて犬をだきおこした。

 タカシたちは、石があたったので、よろこびはじめた。わるいやつをやっつけた気分になって、ぼくもよろこんだ。

 アオが、わんわん涙をながしてなきはじめた。

 ぼくは、アオとアオの犬を見た。

 タカシたちもアオとアオの犬を見た。

 アオは、ずっとないている。

 ぼくは、ようやく、とんでもないことをしてしまったことに気がついた。

 タカシたちも同じだったみたいで、よろこぶのをやめた。

 ぼくたちは、アオとアオの犬にちかよった。

 アオは、犬をかかえて、ずっとないている。

 ぼくも、どうしていいかわからなくなって、ないた。

 タカシたちもなきだした。

 みんなで、わんわん、ないた。

 アオの犬が、すこしだけ、目をあけた。だけど、まだ、よわっているみたいで、動かない。

 だれかが、どうぶつのびょういんを知っていると言った。

 タカシが、アオの犬をだき上げた。「びょういんに行こう」と、タカシが言った。


 アオの犬は、びょういんで、おいしゃさんにみてもらって、元気になった。

 アオは、すごくよろこんで、ぼくたちに「ありがとう。ありがとう」と何度も言った。

 ぼくたちは、わるいことをしたので、アオに「ごめんなさい」と何度もあやまった。

 アオは、犬が元気になったから、ゆるしてくれた。

 ぼくとタカシたちとアオは友達になった。


 アオは、サッカーがとてもうまかった。

 アオは、しゅくだいをだれよりも早くおわらせた。

 体の色が青くても、友達になるのに、かんけいなかった。

 アオはみんなの人気ものになった。


 半年くらいたった。

 アオは、急にまた転校することになった。

 急だったので、ぼくたちはみんなおどろいた。

 ぼくは、アオがいなくなるのはイヤだと言った。

 タカシたちも、アオがいなくなるのはイヤだと言った。

 アオも、ぼくたちとはなれるのはイヤだと言った。

 だけど、どうしようもなかった。

 ぼくは、アオにずっと友達だ、と言った。

 タカシも、アオにずっと友達だ、と言った。

 アオは、泣きながら、ありがとう、ありがとうと何度も言った。


 そして、アオは、転校していった。


 アオは、いなくなった。

 でも、ぼくも、タカシも、そしてみんなも、アオのことをずっと忘れなかった。

 空を見た。

 今日も空は、青い。

 同じ青い空を、アオも見上げている。

 そんな気がした。


 終わり


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あおいひと 北見夕夜 @yu-yakitami

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