消えた妖精に捧げる物語

霜月二十三

本編

 とある村近くに深く暗い森があった。

 背の高い木々きぎがそびえ立ち、その木々のかげにいる関係でなやんでいる木々もまたあって、その木々の葉たちが上空で重なりあった結果、の光が全くと言っていいほど差し込まず、晴れた真昼に入っても夜のように暗い森。

 鹿やウサギなど、村人たちの食料になりそうな動植物がほとんどないのもあって、村の大人たちすら、ほぼだれも近寄らない森。


 だから、多くの村人たちは知らない。

 あの木々の根元やみきの途中などで、独自の進化をげた、ほのかに光るきのこや草花などが点在しているのを。

 森に適応した小動物や、半とうめいに光り輝く長いマーガレットの花びら四枚が背中で交わっているような羽を持つ妖精ようせいたちが平和に暮らしていたりしているのを。


 そんな森の広場に、光る柱があった。

 柱の正体は、高めに見て十才前後であろう子供。自らのまわりで光り飛び回る妖精達と、きゃっきゃくるくると遊んでいる。

 この子は、村の大人や他の子供たちから「まわりに誰もいないのにおしゃべりしてる変わった子」と思われているが、それは、この子にしか妖精が見えていないからである。

 そんな子供に、子供と同じくらいの背丈の妖精少女が、こう声をかけてきた。

「この森で光り輝き、妖精みんななつかれているあなたを見込んで頼みたいことがあるの。

まずは都へ案内するわ、ついてきて!」


 知らない人についていくな、と親から教わっていたが、知らない妖精についていくな、とは教わっていなかったので、その妖精少女に導かれるまま、妖精の都に入る子供。

 妖精の都は、子供がさっきまでいた森の中と違って、木漏れ日や木漏れ日を反射する壁などのおかげで明るい。

 活気ある生鮮市場や、きらめく噴水、弦楽器の生演奏。

 見慣れない都のあらゆる物に、子供が「わあ~」と感動していると、

「また小さい女の妖精が行方知れずですって」

「ここのところ毎日じゃない? やぁねぇ……」

 なにやら、いやな噂が聞こえてきた。

 そういえば、自分は、となりの妖精少女から頼みたいことがあると言われて来たが、

肝心の頼みを聞いていなかったのを思い出す子供。

 そのタイミングを、はかってか妖精少女が、その頼みについて話しだす。


「最近この辺りではね、異質な生命力にあてられて植物の元気がいつもより無かったり、一部の妖精が行方知れずになったり、襲われて食べられたって話も聞いたわ……。

それで、あなたには、わたしたち……」

「うわあああ! なんだあの黒いのは!?」

 妖精少女の話の途中で都に黒い何かが、襲ってきた。

 妖精が、あの黒に近づいた・近づかれただけで、声をあげる間もなく消えてしまう。

 しかも、あの黒の高さは子供と同じか少し高いくらい、横はばは広くなったり狭くなったりと、まるで判別がつかない。

「なにあれ、熊?!」

 子供があの黒の正体予想を言う。

「ううん、ただの熊ならぶつかって捕まれて……ってなるはず、あんな風に消えるなんてありえない……!」

 黒からつるやらなんやらが広がり、建物や住民たちに侵食していく。

「今からが本題よ、まず、あなたの両手の平をあの黒いのに向けて『この手に光あれ』ってとなえて! あなたの光とわたしたち妖精の光を合わせて、あの黒いのを追い払うの!」

 子供は、え?! と戸惑いながらも、彼女が唱えろと言った通りの言葉を復唱する。

 それにつられて他の妖精たちも口々に「光あれ」と唱えると子供の両手の平に白い光が集まっていき、ついには子供の両手以上の大きさになる。

「これだけあれば! 光をあいつにぶつけて!」

 妖精たちと生み出した強い光が黒に向かって放たれ、黒にぶつかる。ぶつかったときのあまりのまばゆさに思わず目を閉じる子供。

 静かになったのを感じて、子供が目を開けると目の前にいた黒が、いなくなっていた。

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消えた妖精に捧げる物語 霜月二十三 @vEAqs1123

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