第197話 ロン様



このシーンを見ると、明らかに変な人だろう。

槍を持ってジッと見つめて念じている感じだ。


『・・そうよ。 私、ロンギヌスの槍自身の言葉よ』

俺は少し驚いた。

武具が生きているのは知っている。

だが、こう意思を持っているのは初めてだ。

『ロンギヌスの槍って・・こっちの世界では神の武器だぞ。 というか、なんで意思があるんだ?』

『そんなこと知らないわよ。 私は持ち主と波長が合うと会話できるのよ。 あなたとは合うみたいね。 それにしても時空を超えさせるなんて、私に傷が付いたらどうするのよ。 あの魔王・・今度お尻をぶっ刺してやるわ』

槍がとんでもないことを言っている。


『まるで生き物のようだな』

俺は思わずそう頭の中でつぶやいてしまった。

『まるでですって! 生きてるわよ。 フローラとはいっぱいお話したわ。 それにイシスもね。 魔王とは声は聞こえるけど、話してやらなかったし』

槍がどんどんと話してくる。

『あのさぁ・・この槍を使って、魔族の残滓を消滅させたいんだが、大丈夫か?』

俺は取りあえず目的を提示してみた。

『大丈夫かですって? 当たり前じゃない。 バカらしくってやってられない作業だわ。 フローラの依頼じゃなければやらないところよ。 あなたがテツっていう人間ね』

『あ、あぁ、そうだが・・随分軽い奴だなぁ』

『奴ですってぇ? レディよ、レディ! 扱いを雑にしないでくれる? お尻をぶっ刺すわよ』

一瞬だが、俺のお尻付近が寒くなった。

『そ、そうか、わかったよ。 これからよろしく頼むよ。 えっと・・』

『ロンギヌスよ。 ロンでいいわ』

『・・わかった、じゃあロン、よろしくな』

『はぁ? ロンじゃなくて、ロン様でしょ! 間違えないで!』

『わ、わかったよ、ロン様。 よろしくお願いします』

『よろしい。 チャッチャと終わらせてやるわ』


なんだか妙な槍と出会ってしまったが、大丈夫なのだろうか。

俺は槍を見つめている。

力をグッと入れてみた。

『あん♡』

ロンが喘ぎ声を出す。

『ロン様、なんで変な声を出すのですか?』

『し、仕方ないじゃない! 力を入れられると勝手に反応しちゃうのよ。 あなた、レベルが40を超えているでしょ。 それくらいの人たちになると、その魔素に反応するのよ』

『そうですか・・』

俺はまたグッと握ってみる。

『あん♡』

今度はグッと握ったまま、槍をの柄を絞ってみた。

『や、やめて・・あん♡』

・・

これはこれで何か面白いな。

俺は槍の柄をグッと握ったり、放したり、いろいろと触っていった。

ロンが妙な声を立て続けに出していたが、パッと槍が消える。

!!

突然俺はお尻に強烈な熱感を感じた。

ゆっくりと自分のお尻を見る。

ロンギヌスの槍が刺さっていた。

右のお尻部分だ。

「い・・痛ってぇ!!」

俺は思わず声を出す。

急いでロンギヌスの槍を引きぬこうと思うが、うまく柄が掴めない。

それに引き抜こうにも動かなかった。


『はぁ、はぁ・・このバカ人間が。 調子に乗りやがって・・これでちょっとは懲りたか』

『ロ、ロン様、申し訳ありませんでした。 俺が悪かったです。 痛いので離れてくれませんか』

俺は哀願する。

しばらく俺の尻に刺さっていたロンギヌスの槍は、スッと離れて俺の横の壁にもたれかかっていた。

『おい人間、本来なら心臓を一突きするところだが、フローラとの約束もある。 これくらいの傷で済んだことが奇跡だな』

ロンが言う。

もう俺には反撃する気力がない。

『は、はい。 悪ふざけが過ぎました。 申し訳ありません』

『よろしい』

俺は心から謝罪する。

ロンは壁にもたれかかって、どうだと言わんばかりだ。


さて、フローラを連れてこの町を出て2日しか経過していない。

ケンたちもまだ滞在しているようだ。

当然クソウもいるだろう。


俺はケンたちにはこの話はしておこうと思っていた。

槍をアイテムボックスに収納し、部屋を出る。

お尻の傷はすぐにヒールをかけた。

アイテムボックスに入れる時に、ロン様が少し嫌がったようだが、仕方ない。

ケンたちの泊っている場所に来た。

時間は7時。

えっと・・確かこの部屋だったよな?

一応町の宿泊施設に泊まっていた。

クソウたちは神崎の建物に滞在している。


俺は今、ケンの部屋の前にいる。

ドアのインターホンを押す。

ピンポーン・・。

「はーい」

すぐに中から声が聞こえた。

ケンの声だ。

すんなりとドアを開けて俺を確認。

「あ、おはようございます、テツさん。 どうしたんですか?」

「うん・・ちょっとケン君たちに話しておこうと思って・・」

「あ、ちょっと待ってくださいね」

ケンはドアチェーンの鍵を外して、俺を中に入れてくれた。


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